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生活支援ロボットとは?言葉を理解して動くロボット|創価大学・萩原良信准教授

作成者: chai+広報部|Sep 28, 2026, 3:16:03 AM

生活支援ロボットとは、家庭などの日常生活の場で、人の言葉を理解し、家事や介護など役に立つ作業を行うロボットです。

言葉を理解するAIも、掃除をするロボットも、すでに身近にあります。しかし、「そこら辺を片付けておいて」と伝えるだけで実際に作業してくれるロボットは、まだ十分には実現していません。創価大学の萩原良信准教授は、人と共に学ぶ「記号創発ロボティクス」と、家庭で役立つ生活支援ロボットの研究を両輪に、この課題に挑んでいます。

本記事では、萩原准教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、生活支援ロボットとは何か、記号創発ロボティクスの考え方、ロボット開発におけるシステム統合の壁、そしてLLMによって大きく進化したロボットのプランニングについて解説します。

この記事でわかること

・生活支援ロボットとは何か、掃除ロボットや対話AIとの違い

・人と共に学ぶ「記号創発ロボティクス」の考え方

・基礎研究と実践の場を往復する研究スタイル

・ロボット開発で最も難しい「システム統合」の壁

・LLMでロボットのプランニングはどう変わったのか

生活支援ロボットとは?

萩原准教授の専門は、人工知能とロボティクスの融合領域である知能ロボティクスと知能情報学です。中でも取り組んでいるのが、家事や介護など、家庭で役に立つ生活支援ロボットの実現です。身近にある技術と比べると、その位置づけがわかりやすくなります。

  家庭用の掃除ロボット 音声アシスタント・対話型AI 生活支援ロボット
言語理解 高度な言語理解はしない 言葉を高度に理解し、対話で応答する 言葉による指示を理解する
物理的な作業 掃除に特化した作業を行う 物理的な作業はできない 片付けなど、指示に応じた作業を行う
実現状況 広く普及 広く普及 まだ十分には実現していない

言語理解と物理的な作業の両方を兼ね備えたロボット――それを萩原准教授は生活支援ロボットと呼び、特定の人だけでなく、一般の家庭や人々の生活全体を支える存在として位置づけています。現在は大手テック企業もこの分野に注力し、ロボット向けの基盤モデルを活用した研究成果が次々と報告されています。

背景には、少子高齢化があります。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の高齢化率(65歳以上の人口の割合)は2020年の28.6%から、2070年には38.7%に達すると見込まれています。高齢者の生活支援や、共働き世帯の子育て支援など、日常生活を広く支える技術へのニーズは高まっています。

年 高齢化率(65歳以上の割合)
2020年(実績) 28.6%
2070年(推計) 38.7%

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」出生中位(死亡中位)推計

将来について萩原准教授は、ロボットがすべてを担うのではなく、人とロボットがそれぞれの得意分野を生かし、協調しながらさまざまな作業を行う社会になると考えています。

記号創発ロボティクスとは?――人と共に学び、発達するロボット

記号創発ロボティクスとは、ロボットが人のように環境や人と相互作用しながら、言葉などの記号や意味を自ら獲得していく仕組みを研究する分野です。萩原准教授は、京都大学の谷口忠大教授のもとで2015年から2024年まで共同で研究を進めてきました。

生活支援ロボットの研究を始めた当初、人なら自然にできることをロボットにやらせようとすると、驚くほど難しい場面に次々とぶつかったといいます。人とは異なるセンサー技術でなんとか実現しようとしてもうまくいかない。そうした中で強く惹かれたのが、記号創発ロボティクスでした。

考え方 内容
構成論的アプローチ 人の知能を理解するために、モデルを実際に作って動かし、その振る舞いから理解を深める方法論
発達ロボティクス 人の認知発達の仕組みを手がかりに、ロボットが自律的に学び、認知能力を高めていく研究分野
記号創発ロボティクス 発達は個体の中で完結せず、複数の知的な存在が言葉などの記号を介してやりとりする中で進むという視点から、記号や意味の獲得を研究する

「5歳児の知能」が実現できれば

現在のChatGPTのようなモデルは、ある意味で「大人の知能」に近い振る舞いを見せます。一方で、3歳児や5歳児のように、限られた経験から言葉を獲得し、周囲とコミュニケーションしていく発達の過程は、まだ十分に実現できていません。

もし5歳児程度まで発達する知能を人工的に実現できれば、その先の知能は、人間と同じ教育環境に置くことで獲得されていくのではないか――。萩原准教授は、言葉や概念を獲得していく初期の発達する知能こそが、今後のAI研究の重要な課題になると考えています。

基礎研究と実践の場を往復する

萩原准教授の研究の特徴は、人の生活に役立つ応用のテーマと、記号創発ロボティクスという基礎的・理論的なテーマを両輪として回している点にあります。応用の実践の場となっているのが、キッチンやリビングなど日常生活の場で人と協働するロボットの競技会「ロボカップ@ホーム」です。萩原准教授は2011年から参加し、現在は委員や幹事も務めています。

研究者としての出発点は、人の視覚の仕組みを数理的に捉えようとした神経科学者の本に惹かれ、画像処理の研究を始めたことでした。具体的なアプリケーションを対象にしたほうが理解しやすく、人にも説明しやすいと感じて応用寄りのテーマに取り組みましたが、「本当に役に立つものとは何か」を突き詰めるほど、人の知覚や認知の仕組みそのものを数理的に捉えることが重要だと考えるようになったといいます。

ロボット開発で最も難しい「システム統合」

2025年2月、萩原准教授が共著者として関わる『ROS2とPythonで作って学ぶAIロボット入門 改訂第2版』(講談社)が刊行されました。ロボカップ@ホームに15年ほど関わり、学生と一緒に開発する中で最も多かった問題が、執筆の出発点です。

音声認識、画像認識、移動(ナビゲーション)、物をつかむ操作(マニピュレーション)など、個々の機能は専門書やウェブの資料に従えば動かせます。しかし、それらを全体としてつなぎ合わせる「システム統合」の段階になると、途端にうまくいかなくなるのです。

つまずきの原因 内容
専門の分断 音声認識、画像認識、制御など専門が分かれ、全体をつなぎ合わせる役割が不在になりがち
必要な知識の幅 統合には、すべての要素技術の基礎知識と豊富な実装経験が必要
知見の不足 研究対象になりにくい領域のため、体系的な知識を持つ人が少ない

そこで、ロボカップ@ホームに関わる教員を中心に、キャンプやワークショップで実践的な知識やノウハウを長年共有してきました。その中で見えてきた、どのチームも共通して押さえるべき内容を一冊にまとめたのがこの本です。制御だけでなく、音声認識や画像認識、そしてロボットが役に立つ行動を取るための中核である「プランニング」まで、AIロボット全体を扱っています。

この「全体をつなぐ役割が不在になる」という課題は、複数のAIツールやシステムを組み合わせて業務に導入する企業にも通じるものです。

LLMでロボットのプランニングはどう変わったか

ロボットの行動を決めるプランニングは、LLM(大規模言語モデル)の登場で大きく変わりました。

  2020年頃まで LLMの普及後(2022年頃〜)
行動の決め方 想定される指示に合わせ、すべての行動パターンを事前に「状態」として記述(ステートマシン) どんな指示にも、それを達成する行動の手順をLLMが柔軟に生成
対応できる指示 文法8パターン×物体10種類×場所10か所で約800通り 事前に想定していない多様な指示にも対応
競技会の汎用タスクの得点 100〜200点程度 1,000点近いスコアを取るチームも登場

出典:萩原准教授への取材より(ロボカップ@ホームの汎用タスク「GPSR」)

プランニングの部分が、LLMや生成AIに置き換わりつつある――それが現在の状態です。ただし、LLMに任せればすべてが解決するわけではありません。

「LLMを用いる場合でも、ロボットが持つスキルや環境に関する知識は、あらかじめ整理してLLMに与えておく必要があります。」

――萩原准教授

この環境の知識を人手で記述するのは非常に大変で、しかも実世界の知識は確定的ではなく、不確実で確率的なものを含みます。そこで萩原准教授は、ロボット自身が環境の知識を獲得し、記述するアプローチに取り組んでいます。その仕組みは、中編で詳しく紹介します。

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よくある質問(FAQ)

Q. 生活支援ロボットとは何ですか?

A. 生活支援ロボットとは、家庭などの日常生活の場で、人の言葉による指示を理解し、家事や介護など役に立つ作業を行うロボットです。萩原准教授は、特定の人だけでなく、高齢者の生活支援や共働き世帯の子育て支援など、一般の人々の生活全体を支える存在として位置づけています。

Q. 掃除ロボットや音声アシスタントとは何が違いますか?

A. 家庭用の掃除ロボットは掃除に特化しており、高度な言語理解はしません。音声アシスタントや対話型AIは言葉を理解できますが、物理的な作業はできません。生活支援ロボットは、「そこら辺を片付けておいて」と伝えるだけで実際に作業するような、言語理解と物理的な作業の両方を兼ね備えたロボットです。

Q. 記号創発ロボティクスとは何ですか?

A. 記号創発ロボティクスとは、ロボットが人間のように環境や人と相互作用しながら、言葉などの記号や意味を自ら獲得していく仕組みを研究する分野です。人間の発達は個体の中で完結せず、複数の知的な存在が言葉を介してやりとりする中で進むという考え方に基づいています。

Q. なぜロボット開発ではシステム統合が難しいのですか?

A. 音声認識、画像認識、移動、物をつかむ操作など、要素技術ごとに専門が分かれており、それらを全体としてつなぎ合わせる役割が不在になりがちだからです。複数の機能を統合するには、すべての要素技術の基礎知識と豊富な実装経験が必要ですが、研究対象になりにくく、体系的な知識を持つ人が少ないと萩原准教授は指摘しています。

Q. LLMでロボットはどう変わりましたか?

A. ロボットの行動を決めるプランニングが大きく進化しました。以前は想定される指示に合わせてすべての行動パターンを事前に記述する必要があり、数百通りの命令にしか対応できませんでした。LLMの登場で、どんな指示にも柔軟に行動の手順を生成できるようになり、ロボット競技会の汎用タスクでは得点が大幅に伸びました。

まとめ:言葉を理解して動くロボットは、人と協調して生活を支える

  • 生活支援ロボットとは、人の言葉を理解し、家事や介護など役に立つ作業を行うロボット
  • 記号創発ロボティクスは、ロボットが人や環境とのやりとりの中で言葉や意味を獲得する仕組みを探る
  • 限られた経験から言葉を獲得する「5歳児の知能」の実現が、AI研究の重要な課題
  • ロボット開発の最大の壁は、要素技術を全体としてつなぐシステム統合
  • LLMでプランニングは大きく進化した。ただし、環境やスキルの知識を与える必要がある

中編では、ロボットが自ら環境の知識を獲得する「確率的生成モデル」の仕組みと、日本にイノベーションを生むために必要な「挑戦を支える文化」について伺います。

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