データサイエンスを実践で学ぶには、分析手法の基礎を身につけたうえで、企業の実際のデータを分析し、結果を発表してフィードバックを受ける経験が役立ちます。九州情報大学の荒平高章教授は、教員と学生の距離が近い少人数教育を生かし、こうした実践的な学びを、資格と並ぶ就職活動の「武器」にすることを目指しています。データサイエンスの応用は、DXやICTだけでなく、スポーツのコンディショニングにも広がっています。
データ分析の手法を学んでも、実際のデータを前にすると、何から手をつければよいのか迷うものです。学んだ知識を「使える力」に変えるには、どのような学びが必要なのでしょうか。
本記事では、荒平教授へのインタビューをもとに、少人数教育が学生の可能性を引き出す理由、企業のデータを使った実践的な授業、就職活動に生きる認定の仕組み、そしてデータサイエンスをスポーツの現場に広げる研究を解説します(数理・データサイエンス・AI教育プログラムの仕組みは、前編で紹介しています)。
この記事でわかること
・教員と学生の距離の近さが、学生の可能性を引き出す理由
・多様な分野の教員がいることが、データサイエンスの理解を深める理由
・企業の実データを分析・発表する授業の進め方
・教育プログラムの認定を、就職活動の「武器」にする工夫
・データサイエンスを陸上競技のコンディショニングに応用する研究
九州情報大学 経営情報学部 情報ネットワーク学科 教授。2008年九州工業大学情報工学部機械情報工学科卒業。2013年九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻博士課程修了、博士(工学)。福岡歯科大学歯科医療工学講座生体工学分野助教、九州情報大学経営情報学部専任講師、同学部情報ネットワーク学科准教授を経て、2025年4月より現職。専門は生体工学(バイオエンジニアリング)とAI・データサイエンス。高等学校教諭の免許を持つ。2022年に文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞。共著に『経営情報入門』(中央経済社、2026年)、『リメディアル教育のための情報リテラシー』(八千代出版、2021年)。
聞き手:AI Future Talks編集部
九州情報大学は学生数が少なく、教員一人当たりの学生数も少ないため、密な指導ができます。教員は学生の顔と名前を一致させて把握しており、名前を呼ぶことが会話のきっかけになるといいます。
やりたいことはあるものの、どの教員や大学ならそれが叶うのか分からず迷っている学生は少なくありません。荒平教授自身も、かつてはそうだったといいます。距離が近ければ、学生の可能性を伸ばせる教員につなげることができます。
経営と情報の融合を掲げる同大学では、実験ができる教員や研究室はほとんどありません。そうしたなかで荒平研究室は、実験も含めた多様な研究に取り組んでおり、他大学の学生に負けないほど研究に打ち込み、成果を上げる学生もいます。荒平教授は、研究にはやる気、熱量、情熱が必要だと強く感じているそうです。
同大学には、データ分析の教員だけでなく、AI、情報セキュリティ、ネットワーク、ロボティクスなど、さまざまな分野の教員がいます。荒平教授は、それぞれの教員の視点から、データ分析の手法がどの場面で生かされるかを示せることが、学生にとっての分かりやすさにつながると言います。
データサイエンス系科目の基礎にあたる「情報リテラシー演習Ⅱ」は、今年度から必修となり、どちらの学科でもほぼすべての1年生が受講しています。授業は次のような流れで進みます。
就職活動は前倒しになり、以前は大学3年生から始めるのが一般的でしたが、今は1年次からインターンシップやキャリアに関する科目があります。荒平教授は、数理・データサイエンス・AI教育プログラムを、資格と並ぶ就職活動の「武器」として位置づけたいと考えています。
そのため同大学では、プログラムの修了認定を前期と後期の年2回行っています。前期に認定を受けた学生は、早い段階から「教育プログラム認定」を肩書きとして就職活動に使えるのです。
データを分析し、結果を伝え、反応を受けて次に生かす。こうした経験は、企業の現場でも欠かせません。そのためには、定型の業務に追われず、データを見て考える時間を確保することが大切です。
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荒平教授は、2026年2月に刊行された共著書『経営情報入門』(中央経済社)で、第1章と第3章を執筆しました。データサイエンスは、データ分析やAIの手法による問題解決に話が偏りがちですが、その知見はDXにも使われています。データサイエンスとDXを結びつけ、さまざまな分野で使われていることを知って、自分の興味のある分野を見つけてほしいという思いを込めたといいます。
同大学には陸上部と相撲部があり、動作の解析や練習メニューの考案といったテーマがあります。荒平研究室にも、2年に1度ほど、データサイエンス系の研究を希望する陸上部の学生が入ってくるそうです。学生の関心は、大きく2つに分かれます。
| 研究のテーマ | 内容 |
|---|---|
| 動作の分析 | 選手の走り方などの動作をデータで分析する |
| コンディショニングの最適化 | 大会当日に最大のパフォーマンスを出すため、食事や練習メニューを含む日々の準備を、AIとデータ分析で最適化する |
出典:荒平教授への取材をもとに編集部作成
コンディショニングの研究では、選手本人が大会前の1カ月、または2週間ほどの練習量やメニューを細かく記録し、それを基礎データとして分析しました。そこから、最適なパフォーマンスにつながる基礎的な知見を導き出しています。学部から大学院まで進んだ陸上部の学生がこの研究を進め、さまざまな場で発表しており、現在は成果を同大学の陸上部に適用できるよう発展させているところです。同大学の陸上部には、インカレなど大きな大会に出場する学生もいます。
荒平教授は、スポーツのコンディショニングの分析や管理へのAIの応用は、今後かなり広がると見ています(スポーツとAIの関わりについては、藤井慶輔准教授のインタビューでも紹介しています)。
A. 分析手法の基礎を学んだうえで、実際のデータを分析し、結果を発表してフィードバックを受ける経験が役立ちます。九州情報大学の「情報リテラシー演習Ⅱ」では、企業から提供されたデータをグループで分析し、最終講義で企業の担当者に発表しています。
A. 教員一人当たりの学生数が少なく、密な指導ができます。荒平教授は、やりたいことがあっても迷っている学生を、その可能性を伸ばせる教員につなげられる点を挙げています。
A. 荒平教授は、プログラムを資格と並ぶ就職活動の「武器」と位置づけたいとしています。九州情報大学では修了認定を年2回行い、前期に認定を受けた学生が早い段階から認定を肩書きとして使えるようにしています。
A. データサイエンスはデータ分析やAIによる問題解決に偏って語られがちですが、その知見はDXにも使われています。荒平教授は共著書『経営情報入門』で、データサイエンスとDXを結びつけ、さまざまな分野での使われ方を示しています。
A. 選手の走り方などの動作の分析や、大会当日に最大のパフォーマンスを出すための食事や練習メニューの最適化に使われています。荒平研究室では、大会前の練習量やメニューの記録を分析し、最適なパフォーマンスにつながる基礎的な知見を導き出しています。
後編では、生成AIを「禁止」するのではなく「伴走者」として使う教育への転換と、AIを使いこなすために必要な、出力を検証する力、質問力、日本語力について紹介します。
社内の知識を参照して答えるAIを「伴走者」に
AIを業務の伴走者にするには、自社のルールや業務の知識に基づいて答えられることが大切です。DEFiDEの「chai+」は、社内の文書やマニュアルを参照して回答するRAG型のAIチャットボットです。回答の根拠を確かめながら、業務の問い合わせ対応やナレッジ共有に活用できます。
▶ 前編:数理・データサイエンス・AI教育プログラムとは?リテラシーから応用基礎まで、経営と情報を融合する段階的な学び(内部リンク)
▶ 後編:生成AIは教育でどう生かすべきか?「禁止」から「伴走者」へ(内部リンク)
▶ インタビュー全文:AIを「伴走者」として生かす力とは――研究・教育の現場から考える、データサイエンス時代の学び(中編)(AI Future Talks)