翻訳AIがある時代でも、英語を軸としたコミュニケーション力は欠かせません。何が大事かを、自分の言葉で伝えられるのは本人だけだからです。
AIが翻訳も読み上げもこなす時代に、なぜ英語を学ぶ必要があるのか。奈良先端科学技術大学院大学の池田和司教授は、若い世代が最も身につけるべき能力として迷わず「英語」を挙げます。その理由は、技術そのものよりも、伝える力のほうが普遍的な価値を持つからです。
本記事では、池田教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、AI時代に英語とコミュニケーション力が欠かせない理由、理系・文系を越える対話の姿勢、そしてスポーツやロボットのデータ活用の可能性と限界について解説します。
この記事でわかること
・翻訳AIがあってもAI時代に英語が必要な理由
・コミュニケーション能力は理系・文系ではなく「話す気」で決まる
・「問題解決屋」として社会に関わり続ける研究者の姿勢
・スポーツのデータ活用の可能性と限界
・ロボットと人の現実的な距離感と、日本のロボット研究の課題
若い世代に最も身につけてほしい能力を尋ねると、池田教授は「英語です」と即答しました。AIは使っていればすぐに学べますし、新しいツールは次々に登場します。特定のツールのスペシャリストになっても、次の技術が出た途端に使い物にならなくなるかもしれない。ある程度のリテラシーを前提としたうえで大事なのは、コミュニケーション能力であり、その土台が英語だというのです。
NAISTでは研究発表に英語を課しています。スクリプトをAIに読ませれば、発音は本人よりきれいかもしれません。しかし、どのキーワードが大事なのか、どこを強調すべきかという抑揚は入りません。AIにはそれがわからないからです。
「だから、書いている本人が自分の言葉で喋らないといけません。」
――池田教授
日本の英語力には課題があります。EF Education Firstの「EF英語能力指数(EF EPI)」2025年版では、日本は123の国・地域中96位でした。技能別では、読む・聞くに比べて、書く・話すのスコアが低くなっています。
| 日本のスコア(EF EPI 2025) | 点数 |
|---|---|
| 総合スコア(世界平均488) | 446(123の国・地域中96位) |
| リーディング | 454 |
| リスニング | 437 |
| ライティング | 394 |
| スピーキング | 393 |
出典:EF Education First「EF英語能力指数(EF EPI)2025」日本のファクトシート
AIが読む・聞くを補えるようになるほど、自分の言葉で書き、話す力の価値が相対的に高まる――池田教授の指摘は、このデータとも重なります。
NAISTは授業を全面的に英語化し、池田教授の研究室はそれより前から公用語を100%英語にしています。留学生もできるだけ多くの国から受け入れ、今では約4割を占めます。日本の人口は世界の数パーセントにすぎず、今後は縮小も見込まれます。優秀な人材が海外に活躍の場を求めたとき、言語が壁になるのはかわいそうだ――だからこそ英語はしっかり学んでおくべきだと池田教授は語ります。もちろん、英語が流暢でも、中身のない研究では相手にされないことは言うまでもありません。
「文系のほうがコミュニケーション能力が高い」と世間では言われがちですが、池田教授はそうは思わないと言います。
「それはどちらかというと理系・文系にあまり関係なくて、人と話す気があるかどうかだけです。」
――池田教授
留学生が多く、わざわざ別の大学から大学院に進んでくる学生が集まるNAISTでは、コミュニケーション能力が低い学生は決して多くないといいます。スマートフォンばかり見ているのは若い世代に限らず、今は大人も同じだと池田教授は笑います。聞き手の山本は、表情や身振りといった言葉以外の非言語コミュニケーションが、AIにはない人間ならではの価値だと指摘しました。
定型業務はAIに、人は「対話」に時間を
人と人との対話は、AIには代われない価値です。DEFiDEの社内業務クラウド「SmartOps」は、AIエージェントやRAG、AI-OCRを活用して、社内手続きの確認や社内情報の検索、紙の書類のデータ化などの定型業務を効率化します。生まれた時間を、人にしかできない対話や協働に振り向けられます。基本機能はずっと無料です。
これから取り組みたい分野を尋ねると、池田教授は「ライフワークと呼べる分野はない」と答えます。スポーツは好きですが、それも「この問題を解決してほしい」という人がいるから取り組んでいるのであって、あくまで「問題解決屋」なのだといいます。
一方で、面白そうなことにはあえて首を突っ込みます。NAISTのある関西文化学術研究都市の高山地区(高山サイエンスタウン)では、市による新たなまちづくりのタウンミーティングにNAISTもステークホルダーとして参加しており、池田教授が出向いて議論に加わっています。大学に閉じこもるのではなく、社会に出ていくことが面白い――それが池田教授の姿勢です。
スポーツの世界ではデータ分析が重視され、世界大会には日本チームにもデータサイエンティストが同行するようになりました。AIやデータの力で、人の運動能力はどこまで高まるのでしょうか。
| 観点 | 池田教授の見方 |
|---|---|
| 可能性 | 分析によってどこを鍛えるべきかを明確に示せれば、かなり伸びる可能性がある |
| 過去の例 | 科学的なトレーニングの試みは昔から行われてきたが、実際にはそれほど大きな差は出ていないのではないか |
| 競技による違い | 陸上100mのような短い競技はむしろ難しい。時間の長いマラソンなどのほうが工夫の余地がある |
サッカーの戦術やフォーメーションのように、データによる分析が生きる領域がある一方で、データで伸ばせる余地は競技によって大きく異なるという冷静な見方です。前編で紹介したボクシングの事故防止のように、競技の安全性を高めるためのデータ活用も重要なテーマです。
北京では、ヒューマノイドロボットがハーフマラソンを走り切りました。かつてASIMOに代表されるように人型ロボットで先行していた日本は、今や中国に後れを取っています。池田教授は、研究者の間で「日本のロボットはひ弱だ」と言われていると明かします。
「壊れてなんぼみたいな実験は、ロボット屋さんにはできません。」
――池田教授
ロボットは1台数百万円から1,000万円と高価で、転んで壊れたら研究が続けられません。そのため研究室では、クレーンで半分吊って転ばないようにするなど、「温室育ち」のロボットになりがちです。耐久性をあまり考えず、「ハーフマラソンなんて機械が持たない」と最初から考えてしまう――そこに、壊すことを前提に耐久試験を重ねる海外との発想と資金力の差があるといいます。
人とロボットの関わりを研究するヒューマンロボットインタラクション(HRI)には、池田教授も認知科学の面から強い関心を持っています。ただ、人とロボットの一体化は、やればやるほど難しいと感じるといいます。家庭のパートナーとしてのロボットについても、普及するには高すぎるうえ、日本の住宅に人と同じサイズのロボットがいたら邪魔だろうと現実的です。階段のある家なら、ロボットが転ぶ心配もあります。夢を語る研究者が多い分野だからこそ、こうした冷静な視点にも価値があります。
A. 池田教授は、必要だとしています。AIに原稿を読ませれば発音はきれいでも、どのキーワードが大事なのかといった抑揚は入りません。何が大事かは書いた本人にしかわからないため、自分の言葉で話す必要があります。英語は、世界とのコミュニケーションを一気に広げる基盤です。
A. 池田教授は、英語を軸としたコミュニケーション能力を挙げています。AIは使えばすぐに学べ、新しいツールも次々に登場するため、特定のツールのスペシャリストになっても使い物にならなくなる可能性があります。一方、自分の考えを伝えるコミュニケーション能力は普遍的な価値を持ちます。
A. 池田教授は、そうは思わないと述べています。コミュニケーション能力は理系・文系にはあまり関係がなく、人と話す気があるかどうかだけだとしています。留学生も多い池田教授の研究室の学生は、決してコミュニケーション能力が低くないといいます。
A. 池田教授は、どこを鍛えるべきかを明確に示せれば、かなり伸びる可能性はあるとしています。ただし、陸上100mのような短い競技で記録を伸ばすのはむしろ難しく、時間の長いマラソンなどのほうが工夫の余地があると述べています。
A. 池田教授は、研究者の間で「日本のロボットはひ弱だ」と言われていると述べています。ロボットが1台数百万円から1,000万円と高価なため、壊れることを前提にした実験ができず、耐久性を十分に考えない「温室育ち」になりがちだという指摘です。資金力の差も大きいとしています。
技術がどれほど進化しても、最終的に価値を生むのは人間の理解力とコミュニケーション力です。方法論で課題を解き続ける「問題解決屋」の視点は、AI時代の専門性のあり方にも一石を投じています。
課題の本質から、AI活用を一緒に考える
DEFiDEは、AI/DXコンサルティングと自社SaaSの開発・提供を通じて、企業のAI活用を支援しています。ツールありきではなく、課題の本質を捉え、それに合う方法を一緒に設計します。
▶ 前編:数理工学とは?「方法論の工学」で分野を越えて社会課題を解く
▶ 中編:生成AIの本質は「検索の延長」?AIとの付き合い方と、日本企業のAI活用の壁
▶ インタビュー全文:「方法論の工学」で世界の課題を解く(後編)