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数理工学とは?方法論の工学で社会課題を解く|NAIST・池田和司教授

作成者: chai+広報部|Sep 27, 2026, 6:10:52 AM

数理工学とは、特定の対象ではなく「方法論」によって世の中の課題の本質を捉え、解決する学問です。池田教授はこれを「方法論の工学」と表現します。

機械、電気、原子力――多くの工学には、先に扱う対象があります。一方、数理工学は対象を限定しないからこそ、生命科学からスポーツ、介護まで、あらゆる分野の課題に入り込めます。奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の池田和司教授は、自らを「問題解決屋」と呼び、依頼や社会課題に応じて研究領域を広げ続けてきました。

本記事では、池田教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、数理工学の考え方、依頼から広がる研究の実例、「問題解決屋」という研究スタイル、そしてNAISTの特徴と産学連携について解説します。

この記事でわかること

・数理工学とは何か、一般的な工学との違い

・排便予測からボクシングの事故防止まで、依頼から広がる研究の実例

・「問題解決屋」「参謀」という研究者のあり方

・大学院大学NAISTの特徴と産学連携

数理工学とは?「方法論の工学」

池田教授が東京大学で学んだのは、数理工学(数学や物理を用いて工学的な現象を数理モデルとして捉え、理論的に解析・設計・最適化する学問)です。

「数理工学は別に数学を研究するのではなくて、逆に「方法論の工学」なのです。」

――池田教授

  一般的な工学 数理工学
出発点 機械、電気、原子力など、先に対象がある 特定の対象を持たない
アプローチ 対象について深く掘り下げる 課題の本質を捉えて方法論を作り、それで問題を解く
求められる知識 対象分野の専門知識 応用先が多いため、浅くても幅広い知識

応用先が多い分、何でも知っておかなければなりません。池田教授が学んだ東京大学工学部の数理工学コースは、学部で必修科目が最も多く、材料力学から量子力学、半導体、電気回路、電子回路まで幅広く学ぶカリキュラムでした。「浅くても良いから広い知識をつけておきなさい」という考え方で身につけた知識が、今も生きているといいます。

依頼から広がる研究――排便予測からボクシングの事故防止まで

池田教授の研究キーワードは40を超え、自ら「何にでも首を突っ込む」と語ります。「データ解析で困っているならNAISTの池田さんに」と紹介され、共同研究の形で分野が次々に広がってきました。

「「まあ面白そうだったら何でもやってみよう」という感じです。」

――池田教授

研究テーマ きっかけ 目指すこと
排便予測 「こういう装置を作ってほしい」という依頼 腸の音から排便時刻を予測し、介護者の負担を減らし、介護を受ける人のQOL(生活の質)を高める
ボクシングの事故防止 日本ボクシングコミッション(JBC)と医療担当の医師からの依頼 公認試合の記録データを解析し、死亡事故などの有害事象のリスク因子を特定。安全基準の策定などにつなげる
アメリカンフットボールの戦略推定 「ライバル校に勝ちたい」という学生の持ち込み 得点状況や残り時間、選手の疲労度などから戦略を分析する
情動・自己効力感の研究 研究室の研究者の関心や、国の大型研究プロジェクト 人はなぜ感情を持つのか、自己効力感を高めるアシストロボットはどうあるべきかを探る

中でも今、特に力を入れているのがボクシングの事故防止です。試合記録をもとに、有害事象のリスク因子の特定や、事故につながりやすい状況の把握、安全基準の策定、試合映像の解析、水分補給に関する医学的な提言までを探っていく計画で、「喫緊の課題なので、ぜひ力を入れたい」と池田教授は語ります。

研究の多くは、研究資金がついたものから優先して取り組むといいます。例えば排便予測は、各種の研究費を得て進めてきましたが、現在は資金が途切れ、中心となっていた学生が卒業したため休止状態です。

「データはあるが、どう解けばよいかわからない」課題に

数理工学の強みは、分野を問わず課題の本質を捉え、方法論で解くことです。DEFiDEでは、AI/DXコンサルティングを通じて、手元のデータで何ができるかの整理から、分析手法の選定、小さな実証まで伴走します。

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「問題解決屋」という研究スタイル

多くの研究者には、「これを解明する」「この病気を克服する」といったライフワークがあります。しかし池田教授は、自分にはそうしたテーマはないと言います。

「「そういう頑張っている皆さんの目標達成のお手伝いができればそれで良いよね」、そんなスタンスなのです。」

――池田教授

東京大学で進路を選ぶとき、数理工学の教員は「数理工学はどこにでもある。だからどこへ行っても潰しが効く。ただし、どこへ行ってもメジャーにはなれない」と語ったといいます。その開き直りに惹かれて数理工学を選んだ池田教授は、自らを「問題解決の専門家」、参謀タイプと位置づけています。

この姿勢は、企業のデータ活用にも示唆を与えます。特定の技術ありきではなく、目の前の課題の本質を捉え、それに合う方法論を選ぶ――それが、分野を越えて成果を出すための考え方です。

NAISTの特徴と産学連携

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)とともに1990年に開学した、学部を持たない国立の大学院大学です。当時は国立としてそれまでにない形態で、韓国のKAIST(韓国科学技術院)などを参考につくられたといいます。

特徴 内容
大学院大学 学部がなく、教育負担が小さいため研究に専念しやすい
研究環境 開学時の潤沢な予算で整備された研究設備。全学情報環境「曼荼羅システム」など
産学連携 産学連携の推進が本来の目的。情報・バイオ・物質の3領域の境界領域にも積極的に取り組む
規模 学生は全体で約1,000人、研究指導教員は約100人の小規模な大学院大学

池田教授はNAISTで、研究室をまたいだ共著論文が最も多い研究者の一人です。バイオや物質の研究室とも共同研究を重ね、データ駆動型サイエンス創造センター、デジタルグリーンイノベーションセンター、メディルクス研究センターの教授を兼任しています。企業との共同研究も多く、連携講座を持つ企業のほか、現在はトヨタ自動車と京都大学を中心とする「モビリティ基盤数理研究ラボ」の活動にも参画しています。

2008年にNAISTへ移るまで、京都大学では機械学習の理論ばかりを研究していたという池田教授。多様な声がかかる環境に身を置いたことが、研究の幅を大きく広げたのです。

研究者としての原点――図書館の本と数理工学

静岡市で生まれ育った池田教授は、サッカーの強豪校として知られる清水東高校の理数科に進みました。サッカー部の全国大会での活躍を身近に見ながらも、自身は理数の道を歩みました。小中学生の頃は図書館に通い詰め、理数系・理工系の本はほとんど読んでいたほどの読書家で、クイズ番組に出演したこともあるといいます。

大学では、1980年代から90年代初頭の第2次ニューロブームの中、生体情報系への興味からニューラルネットワーク(人間の脳の神経細胞の働きを模倣した機械学習モデル)や機械学習の理論を研究しました。幅広いものへの好奇心と、方法論で課題を解く数理工学――その組み合わせが、今の池田教授の研究スタイルを形づくっています。

よくある質問(FAQ)

Q. 数理工学とは何ですか?

A. 数理工学とは、数学や物理を用いて工学的な現象を数理モデルとして捉え、理論的に解析・設計・最適化する学問分野です。池田教授は、機械や電気のように特定の対象を持つ工学とは異なり、世の中の課題の本質を捉えて方法論を作り、それを使って問題を解決する「方法論の工学」だと説明しています。

Q. 数理工学はどんな分野に応用できますか?

A. 特定の分野を対象としないため、応用先は幅広くあります。池田教授の研究だけでも、生命科学、医療、材料、スポーツ、介護支援などに及び、研究キーワードは40を超えます。そのため数理工学を学ぶ学生は、材料力学から量子力学、電気回路まで、浅くても幅広い知識を身につけることが求められます。

Q. 池田教授はどのように研究テーマを選んでいますか?

A. 池田教授は、自分からテーマを決めるよりも、共同研究者や学生からの「こういう問題を抱えているが、何かできないか」という相談や依頼をきっかけに研究を始めることがほとんどだと述べています。頑張っている人たちの目標達成を手伝う「問題解決屋」「参謀タイプ」というスタンスです。

Q. 排便予測の研究とは何ですか?

A. 腸の音を計測するウェアラブル機器と機械学習を組み合わせて、排便の時刻を予測するシステムの研究です。介護現場で排便を事前に把握できれば、介護者の負担を減らし、介護を受ける人の生活の質(QOL)を高められます。「困っているので装置を作ってほしい」という依頼がきっかけでした。

Q. 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の特徴は何ですか?

A. NAISTは1990年に開学した、学部を持たない国立の大学院大学です。学部教育の負担が小さく研究に専念しやすいこと、充実した研究環境、そして産学連携の推進を本来の目的としていることが特徴です。情報・バイオ・物質の3領域を持ち、その境界領域の研究にも積極的に取り組んでいます。

まとめ:対象ではなく「方法」で、分野を越えて課題を解く

  • 数理工学とは、特定の対象ではなく方法論で課題の本質を捉え、解決する「方法論の工学」
  • 応用先が多いからこそ、浅くても幅広い知識が求められる
  • 池田教授の研究は、排便予測、ボクシングの事故防止、スポーツの戦略分析など、依頼から広がってきた
  • ライフワークを持たず、頑張る人の目標達成を手伝う「問題解決屋」「参謀」というスタンス
  • 研究に専念でき、産学連携を目的とするNAISTの環境が、分野を越えた研究を後押ししている

中編では、理論と実践を往復する機械学習の教科書づくり、生成AIの本質をどう捉えるか、そして日本企業のAI活用の壁について伺います。

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