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生成AI時代にプログラミングは必要?AIを判断する力|関西大学・丸野由希准教授

作成者: chai+広報部|Sep 27, 2026, 3:02:40 AM

生成AIがコードを書く時代でも、プログラミングやデータリテラシーの基礎は必要です。AIの出力が本当に正しいかを判断できるのは、自分で手を動かした経験を持つ人間だからです。

AIコーディングツールの進化はすさまじく、「もうプログラミングを学ばなくてよいのでは」という声も聞かれます。関西大学ビジネスデータサイエンス学部の丸野由希准教授は、生成AIを強力な支援ツールと認めたうえで、出力の妥当性を判断し、目的に応じて軌道修正する力は人間の側に求められると語ります。

本記事では、丸野准教授へのインタビュー(聞き手:DEFiDE代表 山本)をもとに、生成AI時代にプログラミングを学ぶ意味、「人による確認」を機能させる条件、日本企業に足りないもの、そしてAIに学びを奪わせないための向き合い方を解説します。

この記事でわかること

・生成AI時代にもプログラミングの基礎が必要な理由

・ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)を機能させる条件

・日本企業のAI活用に足りない「まずは小さく試す」空気

・若い世代がAIに「学び」を奪われないための考え方

・読む・対話する・実践する――自ら学び続ける力の育て方

取材協力:丸野 由希(まるの ゆき)氏

関西大学 ビジネスデータサイエンス学部 准教授(取材時)。博士(工学)。京都女子大学現代社会学部の第一期生として、Rubyによるプログラミング教育に触れる。卒業後は企業の研究開発部門でITエンジニアとして6年間、社内システム開発やデータ解析に従事。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に進学し、機械学習の応用研究で博士(工学)を取得。専門は生体信号解析と機械学習の応用で、医療・獣医学・ビジネスなど分野を越えた共同研究を通じ、心拍変動を用いた熱中症検知、深層学習による嚥下障害スクリーニング、イヌの生体信号から情動や疲労度を推定する研究などに取り組む。教育面では初年次教育のほか、プログラミング・統計学・機械学習の授業を担当。2026年3月に共著『ここから学ぶ統計的機械学習 Pythonで実践!確率・統計から推定・学習理論まで』(科学情報出版)を刊行。

聞き手:DEFiDE株式会社 代表 山本

生成AI時代にプログラミングを学ぶ必要はある?

研究者の中にも、「今の時代、生成AIに書かせればよい」「実際に書かせたら使えるものが出てくる」という声は多くあります。丸野准教授は、それに賛成する部分もありつつ、異論もあると言います。

研究者が生成AIのコードを使いこなせるのは、自分自身でプログラムを書いた経験があるからこそ、出てきたものが使えるかどうかを判断できるからです。プログラミングの世界に触れたことのない学生や社会人が、AIが生成したものに対して「それが本当に正しいのか」を判断するのは困難です。

「やはり、出てきたものに対する判断ができるようになるには、データリテラシーやプログラミングの基礎は、しっかりと身につけておかなければいけないと感じています。」

――丸野准教授

  基礎がある人 基礎がない人
AIへの指示 知識を言語化して指示を与え、欲しいものを引き出せる 指示の出し方が悪く、欲しいものになかなか到達できない
エラーへの対応 原因を見極め、目的に沿って軌道修正できる 「このエラーを修正して」を繰り返し、本来の目的から外れていく
出力の確認 「本当に正しいか」「何か見落としていないか」と立ち止まれる 出てきたものをそのまま受け入れ、何が問題かにも気づけない

ヒューマン・イン・ザ・ループを機能させる条件

ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)とは、AIや自動化システムの判断プロセスに人間が意図的に関与し、精度や安全性を高めていく仕組みです。AIに任せきりにせず、最後は人がしっかり確認する――丸野准教授もこの考え方をとても大切だとしています。

ただし、その「人による確認」がどれだけ機能するかは、指示を出す人の知識や経験に大きく左右されます。卒業論文の指導でも、「これはどんな流れでこうなったの?」と尋ねると「ChatGPTに聞きました」と返ってくる、生成AIに翻弄されている学生を目にすることがあるといいます。

問題意識は、データサイエンスやプログラミングに実際に触れた経験があってこそ育つものです。手を動かしながら学んだ経験があるからこそ、AIから返ってきたものに立ち止まれる。だからこそ、まず自分自身の知識や経験を土台として築き、その上に生成AIを上手に重ねていくことが大切だと丸野准教授は語ります。

日本企業のAI活用に足りないのは「まずは小さく試す」空気

「一番足りないのは、組織全体で「まずは小さく試してみる」という空気感ではないかと感じております。」

――丸野准教授

総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、生成AIの活用方針を定めている企業の割合は、日本では約5割にとどまる一方、米国・中国・ドイツでは約9割に達しています。

国 生成AIの活用方針を定めている企業の割合
日本 約5割
米国・中国・ドイツ 約9割

出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」

AIはこれまで触れる機会が少なかった技術で、「知らないものをどう扱うか」という戸惑いは、立場や世代を問わず自然なことです。そのうえで丸野准教授は、AIを使い慣れた若い世代や、学校・大学でAIを学んだ人が新しい提案をしたとき、組織としてそれを受け止め、ともに試していく雰囲気が整えば、日本の技術や実務の発展はもっと加速すると考えています。

失敗を恐れていては何も前に進みません。うまくいかなければ、次にどんな手を打つかを考える。その過程で、次につながる何かが必ず得られます。丸野准教授が好きな言葉は「Let’s try anyway」――「まずはやってみる」です。自分たちの手に負えない新しい技術であれば、専門家に頼ってほしいとも語っています。

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AIに「学び」を奪わせない

AIを当たり前のツールとして使いこなす若い世代に、丸野准教授は次のように呼びかけます。AIを使いこなすスキルが今後の社会で必要になるのは間違いありません。しかし、高校や大学という、自分で学びを積み上げていく大切な時期にAIに頼ってしまうと、学ぶ機会そのものをAIに奪われてしまうのです。

「大学で学費を払って授業を受けているのに、実質的に学んでいるのは自分ではなくAIになってしまうのです。」

――丸野准教授

そのうえで丸野准教授は、次の2つを自問しながら生成AIと向き合ってほしいといいます。

  • 今、自分に必要な知識やスキルを身につけるには、どう行動すればよいのか
  • その行動を、生成AIを使うことで阻害していないか

AIに振り回されるのではなく、AIを味方にしながら、自分の中にしっかりとした学びの軸を育てていく。AIを当たり前に扱える若い世代は、これからの社会にとって大きな力です。

読む・対話する・実践する――自ら学び続ける力の育て方

書籍と対話する経験を積む

本を読むことは、書籍との対話です。大学生が本と向き合う機会は、以前より少なくなっていると丸野准教授は感じています。そこでプログラミングの授業では、自身が執筆した本を教科書に指定し、予習で教科書を読み込んで理解したうえで、授業では実践演習に取り組むスタイルを採っています。学部全体でも、初年次教育の中で図書館ガイダンスを行い、書籍と出会う第一歩を後押ししています。

社会に出れば、傍らで教えてくれる教員はいません。自分で学びを取りに行く力こそが、生涯にわたってその人を支え続けます。

関心の外側に触れ、多様な人と対話する

便利な情報源があふれる時代には、自分と似た意見ばかりが反響するエコーチェンバーに陥りやすく、関心の外側に触れる機会が知らず知らずのうちに細くなっていきます。丸野准教授は、アカデミアこそ「関心の外側」とも出会い、対話できる場所であってほしいと語ります。多様な人と意見を交わすからこそ、自分だけでは見えなかった視点に気づき、違いを尊重しながら一つのアイデアにまとめていく力が育つのです。

教える側も、学び続ける

先の見えない時代には、教員が教卓の前でひたすら話すような授業はもう合わない、と丸野准教授は言います。自身も、学内のFD研修や、海外の教授法を学ぶEMI(English Medium Instruction)の研修に参加し、AIを活用した教育など新しい教授法に触れ続けています。「協働」と「共創」、そして対話を通じて学ぶこと――それが丸野准教授の教育の軸です。

よくある質問(FAQ)

Q. 生成AIがコードを書く時代に、プログラミングを学ぶ必要はありますか?

A. 丸野准教授は、必要だとしています。生成AIに書かせたコードが使えるかどうかを判断できるのは、自分でプログラムを書いた経験があるからです。プログラミングの世界に触れたことがなければ、出てきたものが本当に正しいのかを判断できません。

Q. ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)とは何ですか?

A. ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)とは、AIや自動化システムの判断プロセスに人間が意図的に関与し、精度や安全性を高めていく仕組みのことです。丸野准教授は、その「人による確認」がどれだけ機能するかは、確認する人の知識や経験に大きく左右されると指摘しています。

Q. 生成AIにエラー修正を繰り返し頼むと、何が起きますか?

A. 知識や経験が十分でないまま「このエラーを修正してください」と繰り返すと、修正のたびに別のエラーが出て、本来の目的からどんどん外れてしまうことがあります。丸野准教授は、自分の知識や経験を土台に築いたうえで、その上に生成AIを重ねることを勧めています。

Q. 日本企業がAIを活用するために最も足りないものは何ですか?

A. 丸野准教授は、組織全体で「まずは小さく試してみる」という空気感だと述べています。AIを使い慣れた若い世代が新しい提案をしたときに、組織として受け止め、一緒に試していく雰囲気が整えば、日本の技術や実務の発展はもっと加速すると考えています。

Q. 学生が生成AIに頼りすぎると、どんな問題がありますか?

A. 高校や大学という学びを積み上げる大切な時期にAIに頼りすぎると、学ぶ機会そのものをAIに奪われてしまいます。丸野准教授は、学費を払って授業を受けているのに実質的に学んでいるのはAIになってしまう、と警鐘を鳴らし、「必要な知識やスキルを身につける行動を、生成AIが阻害していないか」と自問するよう呼びかけています。

Q. AI時代に自分で学ぶ力を育てるには、どうすればよいですか?

A. 丸野准教授は、書籍を読んで自分の力で理解するプロセスと、他者との対話や協働を重視しています。授業では教科書を予習で読み込み、授業では実践演習に取り組むスタイルを採用。関心の外側にある分野や、自分と異なる視点にも開かれた姿勢を育てることが大切だとしています。

まとめ:AIを使う前に、自分の中に「学びの軸」を

  • 生成AI時代でも、出力の正しさを判断するにはプログラミングとデータリテラシーの基礎が欠かせない
  • ヒューマン・イン・ザ・ループが機能するかどうかは、確認する人の知識と経験で決まる
  • 日本企業に足りないのは、組織全体で「まずは小さく試す」空気。「Let’s try anyway」の姿勢が重要
  • 学びの時期にAIに頼りすぎると、学ぶ機会そのものを奪われる。AIが学びを阻害していないか自問する
  • 読む・対話する・実践する経験が、生涯にわたって自ら学び続ける力を育てる

生成AIによって、コードを書くことや情報を得ることのハードルは大きく下がりました。だからこそ、その結果を正しく判断し、本来の目的へ導く力が人間に求められています。多様な価値観に触れながら問いを立て、考え続ける――それが、AI時代を切り拓く力です。

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▶ 前編:生体信号×AIで何がわかる?心拍変動による熱中症検知から嚥下障害スクリーニングまで

▶ 中編:文系でもデータサイエンスは学べる?AI時代にデータを価値に変える4つの力

▶ インタビュー全文:“問いを立てる力”がAI時代を切り拓く(後編)