関西大学 ビジネスデータサイエンス学部 准教授
丸野 由希(まるの ゆき)氏
PROFILE
関西大学 ビジネスデータサイエンス学部 准教授(取材時)。博士(工学)。京都女子大学現代社会学部の第一期生として、Rubyによるプログラミング教育に触れる。卒業後は企業の研究開発部門でITエンジニアとして6年間、社内システム開発やデータ解析に従事。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に進学し、機械学習の応用研究で博士(工学)を取得。専門は生体信号解析と機械学習の応用で、医療・獣医学・ビジネスなど分野を越えた共同研究を通じ、心拍変動を用いた熱中症検知、深層学習による嚥下障害スクリーニング、イヌの生体信号から情動や疲労度を推定する研究などに取り組む。教育面では初年次教育のほか、プログラミング・統計学・機械学習の授業を担当。2026年3月に共著『ここから学ぶ統計的機械学習 Pythonで実践!確率・統計から推定・学習理論まで』(科学情報出版)を刊行。
文系出身でも、段階を踏めばデータサイエンスは十分に学べます。大切なのは高度なプログラミング技術よりも、「問いを立てる力」と「データを見る目」です。
生成AIの進化で、誰もが簡単にコードを書き、データを扱える時代になりました。関西大学ビジネスデータサイエンス学部の丸野由希准教授は、自身も文系の学部から大学院で情報系に進んだ経験をもとに、「プログラミングは難しい」「AIは難しい」という思い込みの壁を生まない教育を実践しています。
本記事では、丸野准教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、AI時代にデータを価値に変える4つの力、「わかったつもり」を超える学び方、そして実践から始めるデータサイエンス教育を解説します。
この記事でわかること
・文系出身でもデータサイエンスを学べる理由
・AI時代にデータを価値に変える4つの力
・「わかったつもり」で終わらない、手を動かす学び方
・実践から始め、対話で学ぶデータサイエンス教育
・データサイエンスを学ぶ本当の意義
文系でもデータサイエンスは学べる?
丸野准教授自身、文理融合の学部を卒業し、「自分は文系出身」だと考えています。大学院から理系の情報系に進み、今では統計的機械学習の入門書を共著で刊行するまでになりました。
学部時代には社会調査の領域で、社会現象を統計的に分析する手法を学びました。「数字を通じて社会の課題を読み解く」という視点に出会えたことが、機械学習や統計の世界に進んでも「これは社会のどんな問いに答える道具になるのか」と問い続ける土台になっているといいます。
理系の教育は数式から入ることが多く、それが「プログラミングやAIは難しい」という思い込みにつながるのはもったいない、と丸野准教授は言います。前任校でも、大学に入ってからプログラミングや機械学習を学び始めた学生が大半でしたが、それぞれの興味に応じてさまざまな場で活躍しているそうです。
実際、丸野准教授が在籍する関西大学ビジネスデータサイエンス学部の2025年度入学生は、文系・理系のどちらかに偏ることなく集まっています。
| 出身 | 2025年度入学生に占める割合 |
|---|---|
| 理系 | 50.3% |
| 文系 | 42.9% |
| その他 | 6.8% |
出典:丸野准教授へのインタビューより(関西大学ビジネスデータサイエンス学部)
テキストデータや社会調査データなど、私たちが日々触れているデータは文系・理系の枠を越えて広がっています。「数字や言葉で社会を読み解く」という視点の延長線上にデータサイエンスがあると捉えれば、ぐっと身近な学びになるはずです。
AI時代にデータを価値に変える4つの力
自分の考えをコンピューターに実行させるために身につけたい力として、丸野准教授は次の4つを挙げます。
| 力 | 内容 | AI時代に重要な理由 |
|---|---|---|
| ① 言葉にする力 | 自分の考えを論理的に整理し、正確に伝える力 | 自然言語でAIに指示を出せる時代。「何をしたいのか」を言葉にできるかが成果を左右する |
| ② データリテラシー | データの意味を正しく理解し、適切に判断・活用する力 | 元データに偏りや欠けがあれば、AIの結果もそのまま偏る |
| ③ 統計の基礎 | 数字がどこから出て、どんな条件で成り立つかを考える力 | AIは自信ありげに答えるが、必ず正しいとは限らない。立ち止まる「判断する目」になる |
| ④ 機械学習の基本的な仕組み | AIが何をどう学習し、出力しているかを理解する力 | AIに何を、どこまで任せられるか、どこに注意が必要かが見えてくる |
プログラミングは、最初から完璧に書けなくても大丈夫だと丸野准教授は言います。むしろ、「自分が何をしたいのか」を論理的に整理して言葉にする力のほうが重要になってきています。
「ビジネスの現場でAIを使いこなすために必要なのは、突出したプログラミングスキルというよりも、データを見る目と問いを立てる力ではないかと思っています。」
――丸野准教授
4つの力はどれも、特別な才能ではなく、手を動かしながら少しずつ育てていける力です。
社員の「データを見る目」、組織でどこまで育っていますか?
AIを使いこなす力を組織で育てる第一歩は、現状を知ることです。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」で、組織の生成AI活用の状況を把握し、育成の優先順位を明確にできます。
「わかったつもり」を超える学び方
統計と機械学習を一緒に、しかも手を動かしながら学べる入門書がなかなかない――授業でずっと感じていたこの課題から生まれたのが、大学院時代の恩師・池田和司氏(奈良先端科学技術大学院大学教授)との共著『ここから学ぶ統計的機械学習 Pythonで実践!確率・統計から推定・学習理論まで』(科学情報出版)です。
| 構成 | 学べる内容 |
|---|---|
| 第一部 | Pythonの基本操作と、確率・統計の基礎 |
| 第二部 | 実際のデータを使った分析と可視化 |
| 第三部 | SVM、ブースティング、時系列解析など実践的な機械学習。最終章では生成AIの活用にも触れる |
特別な前提知識は必要なく、プログラミングや統計に初めて触れる学生から、データ分析やAIに関心のある社会人までを想定しています。「数学は苦手だけど、Pythonでなら試してみたい」という人にこそ手に取ってほしいといいます。
「一番こだわったのは、「わかったつもり」で終わらせないための工夫です。」
――丸野准教授
そのための工夫は次の3つです。独学でデータサイエンスを学ぶときにも、そのまま応用できる考え方です。
- 説明には必ずコードをセットにする:数式を読むだけでなく、コードを書いて動かすことで「なるほど、こういうことか」と納得しながら理解を深める
- 実行結果はあえて載せない:「動かしてみたらどうなるのか」を、読者自身が体験できるようにする
- 写経で終わらせない:コード例を写経(一字一句打ち込んで再現する学習方法)して動かしたあと、理解度チェックで応用できるかを「腕試し」し、解答解説で確かめる
説明だけの本を読んで理解したつもりになっても、実際に使うにはまた別の本が必要になる――そんな経験をなくし、知識のインプットと実務での活用を一冊で完結させることがゴールです。概念の説明の順番や、数式とコードの並べ方は、「文系出身の自分が読み手だったらどこで立ち止まるか」を基準に、共著者と議論を重ねたといいます。
実践から始め、対話で学ぶデータサイエンス教育
関西大学ビジネスデータサイエンス学部は、ビジネスとデータサイエンスの両方のスキルを兼ね備えた人材の育成を目指しています。その教育には、一般的な大学教育とは異なる特徴があります。
| 一般的な教育 | 関西大学ビジネスデータサイエンス学部 |
|---|---|
| 基礎を学んでから実践に進む | まず実践し、「ここにプログラミングが必要だ」と気づいたら学びに向かう |
| ビジネス特化型か、データサイエンス特化型に分かれがち | ビジネスとデータサイエンスの両方をカバーする |
| データサイエンスは一人で黙々と作業するイメージ | 入学直後から毎回の授業でグループワーク・ディスカッション・発表・フィードバックを行う |
自分の必要感を起点に学びに向かうため、知識が身につくスピードも、使える力になるまでの距離も大きく変わると丸野准教授は感じています。グループワークで大切にしているのは、「他者の意見を否定しない」姿勢です。仕事はチームで、部署を越えて行うもの。一人では気づけなかった発見に触れ、他者から学ぶ経験は、社会に出てからも欠かせない力になります。
こうした実践型の教育には、授業をオーガナイズする力と、実務に裏打ちされた現場のリアリティが教員に求められます。同学部は実務経験のある教員が大半を占め、学部長の鷲尾隆氏のもと、各分野の教員が強みを持ち寄っているといいます。学部で身につけたい力は、次の3つです。
- 知識:ビジネスとデータサイエンスに関する知識
- 実践力:知識を実際に使いこなす力。グループワークでビジネス課題に取り組みながら体で覚える
- 学ぶ力:実践して「ここが足りない」と気づき、自ら学びに向かう力。社会に出てからも自分を支える
目指す人材像は、ビジネスだけ、データサイエンスだけに特化するのではなく両方をカバーできる人材、あるいはビジネス側の人とデータサイエンスの専門家を橋渡しする「翻訳者」です。IT系に限らず、製造、金融、医療、流通、マーケティング、人事など、あらゆる業種・部門でデータを活かす力が求められています。
データサイエンスを学ぶ本当の意義
データはビジネスの現場にも研究の世界にもあふれています。しかし、データがあるだけでは何も起きません。そこから何を読み取り、どう活かすかを考えられる人がいて、初めてデータが価値に変わると丸野准教授は言います。
データサイエンスを学べば、自分のやりたいことを実現するスキルが身につきます。それに加えて丸野准教授が大切にしたいのは、その「やりたいこと」自体を見つけ、「何のために使うのか」と問いを立てる力です。ツールやスキルは進化し続けますが、課題を見つけてデータで解こうとする姿勢は、どんな時代にも通用します。
「データサイエンスを学ぶことは、単に技術を身につけることではなく、データを通じて世界を見る目を養うことだと思っております。」
――丸野准教授
よくある質問(FAQ)
Q. 文系出身でもデータサイエンスは学べますか?
A. 学べます。丸野准教授自身、文系の学部出身で、大学院から情報系に進みました。前任校でも大学に入ってからプログラミングや機械学習を学び始めた学生が大半だったといい、段階を踏めば文系出身でもプログラミングや機械学習を身につけていけると述べています。
Q. AI時代にデータを使いこなすために必要な力は何ですか?
A. 丸野准教授は4つを挙げています。自分の考えを論理的に整理して伝える「言葉にする力」、データの質を見極める「データリテラシー」、AIの答えを鵜呑みにせず立ち止まれる「統計の基礎」、そしてAIに何をどこまで任せられるかがわかる「機械学習の基本的な仕組み」です。
Q. データリテラシーとは何ですか?
A. データリテラシーとは、データの意味を正しく理解し、適切に判断・活用するための能力です。AIが学習する元データに偏りや欠けがあれば結果も偏るため、そのデータがどこからどのように集められ、どんな前提が含まれているかを意識できる目が求められます。
Q. プログラミングの「写経」だけでは不十分ですか?
A. 写経(サンプルコードを一字一句打ち込んで再現する学習方法)は入門として大切な一歩ですが、丸野准教授は、その先で応用して使える力を育てることが重要だとしています。共著書では、写経で動かしたあとに理解度チェックでコードを応用できるかを「腕試し」する構成にしています。
Q. 統計を学ぶとAIとの付き合い方はどう変わりますか?
A. AIは何を尋ねても自信ありげに答えを返しますが、その答えが必ず正しいとは限りません。統計の考え方に触れておくと、「この数字はどこから出ているのか」「どんな条件で成り立っているのか」と自然に立ち止まって考えられるようになり、AI時代に欠かせない「判断する目」が育ちます。
Q. データサイエンスを学ぶ意義は何ですか?
A. 丸野准教授は、データをもとに自分で考え、判断し、行動できる力を身につけることだとしています。スキルの習得に加えて、「やりたいこと」自体を見つけ、「何のために使うのか」と問いを立てる力、そしてデータを通じて世界を見る目を養うことが、生成AI時代にいっそう問われると述べています。
まとめ:データを価値に変えるのは「問いを立てる力」
- 文系出身でも、段階を踏めばデータサイエンスは学べる。「数字や言葉で社会を読み解く」視点の延長線上にある
- AI時代に必要なのは、言葉にする力・データリテラシー・統計の基礎・機械学習の仕組みの4つの力
- コードとセットで学び、結果は自分で確かめ、写経の先で「腕試し」する――「わかったつもり」を超える学び方
- まず実践し、必要を感じてから学ぶ。グループワークで他者から学ぶ経験が、社会で生きる力になる
- データサイエンスを学ぶ意義は、データを通じて世界を見る目を養うこと
後編では、生成AIがコードを書く時代にプログラミングを学ぶ意味、日本企業に足りないもの、そしてAIに「学び」を奪わせないための向き合い方を伺います。
社員が「自分で調べて学べる」環境を
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▶ 前編:生体信号×AIで何がわかる?心拍変動による熱中症検知から嚥下障害スクリーニングまで
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