生成AIを教育で生かすには、使用を禁止するのではなく、AIを「伴走者」として使い、その出力を自分の知識で確かめ、必要なら正す力を育てることが大切です。九州情報大学の荒平高章教授は、AIの力を引き出す質問をする力と、その土台となる日本語力や知識こそが、AI時代の学びの核心だと語ります。
生成AIが登場した当初、大学では「学生にAIを使わせないようにすべきではないか」という議論がありました。それから数年がたち、スマートフォン一台でAIを使える今、教育の現場はAIとどう向き合っているのでしょうか。
本記事では、荒平教授へのインタビューをもとに、情報リテラシー教育の変化、「禁止」から「伴走者」への転換、企業と連携した実践的な学び、AI時代の研究と学力の変化、そしてAIを使いこなすための質問力と日本語力を解説します。
この記事でわかること
・学生の情報リテラシーで、今重要になっていること
・生成AIを「禁止」から「伴走者」として使う教育への転換
・企業と大学の連携で、社会で通用する力を育てる方法
・AIで研究と学生の学力はどう変わったか
・AIを使いこなす土台となる、質問力と日本語力
九州情報大学 経営情報学部 情報ネットワーク学科 教授。2008年九州工業大学情報工学部機械情報工学科卒業。2013年九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻博士課程修了、博士(工学)。福岡歯科大学歯科医療工学講座生体工学分野助教、九州情報大学経営情報学部専任講師、同学部情報ネットワーク学科准教授を経て、2025年4月より現職。専門は生体工学(バイオエンジニアリング)とAI・データサイエンス。高等学校教諭の免許を持つ。2022年に文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞。共著に『経営情報入門』(中央経済社、2026年)、『リメディアル教育のための情報リテラシー』(八千代出版、2021年)。
聞き手:AI Future Talks編集部
荒平教授は、2021年に共著書『リメディアル教育のための情報リテラシー』(八千代出版)を執筆しました。リメディアル教育とは「学び直し」のことで、高校までの学習の差を大学1年次にならし、スタートラインをそろえる教育です。当時は高校の情報科目の内容に学校ごとの差が大きく、その差をそろえるために執筆したといいます。現在は、学生間の差は小さくなったと感じているそうです。
タイピングやOffice製品の操作で極端な差が出ることは、もうありません。荒平教授が今重要だと考えるのは、生成AIの活用と情報倫理です。SNSなども含め、情報をどこまで自分のものとして使ってよいのか、何を守るべきなのか、その線引きがあいまいになっているからです。
3〜4年前、生成AIを脅威と見る向きが強く、大学でも「使ってはいけないのではないか」という議論がありました。しかし、スマートフォン一台でAIが使える今、禁止するのは難しくなっています。荒平教授によれば、教育の方向性は、AIの使用を許容したうえで、伴走者・パートナーとして使う方向へと変わりました。
| 観点 | かつての議論 | 現在の方向性 |
|---|---|---|
| AIの捉え方 | 学びを脅かす存在 | 学びの伴走者・パートナー |
| 授業での扱い | 使用を禁止すべきではないか | 使用を許容し、使い方を教える |
出典:荒平教授への取材をもとに編集部作成
AIで書かれたレポートは実際にあるだろうと荒平教授は見ています。それを見抜けるかは難しい問題です。ただし、AIを使ってレポートを書いた学生は、AIを使わない演習や定期試験で差が出てくるといいます。AIの内容を理解して使う人と、答えを出すためだけに使う人とでは、最終的に差が出るのです。
そのため荒平教授は、最初から学生に「AIの言うことがすべて正しいとは限らない」と伝え、出力を見抜く力の大切さを強調してきました。AIの精度は上がり、極端な誤りは減っていますが、うのみにせず、自分の知識でいったん確かめることを勧めています。
デジタル人材の育成は、座学と演習で完結しているところが少なくありません。荒平教授は、近年は企業と大学の講義が連携し、実践的な学びが増えていると言います。
授業の中でPDCAを回す経験が、社会に出たときの即戦力につながります。荒平教授は、企業から課題をもらって学生と一緒に解決する取り組みに加え、高校と大学が連携し、高校生と地域の問題に取り組む活動も行っています(企業のデータを使った授業の進め方は、中編で紹介しています)。
ここ4〜5年で、研究の結果やデータ、テーマは大きく変わったと荒平教授は言います。ビッグデータを前提に、スーパーコンピューターなどで細かい分析ができるようになりました。一方で、実験による検証で得られるデータは、ビッグデータに比べて量が少ないものです。そのデータにAIを使う意味があるのかを、荒平教授は日々自問しているといいます。
では、AIの登場で学生の学力は上がったのでしょうか。荒平教授は「難しい質問」と前置きしたうえで、次のような変化を挙げています。
| 観点 | AI登場前 | 現在 |
|---|---|---|
| 宿題の提出状況 | 白紙や1〜2行で終わる学生もいた | ほぼ全員が全問に回答してくる |
| 到達度の測り方 | 自宅での宿題で評価できた | 宿題での評価が難しくなったため、授業内の問題演習で現在の到達点を測る |
出典:荒平教授への取材をもとに編集部作成
一言でAIとは何かと問われ、荒平教授は「伴走者」だと答えます。間違えることもあるが、ある程度正しいことを示してくれる、よきパートナーです。だからこそ、間違いや足りない点は、使う側が正しながら使うことが大切であり、AIを正すには、それだけの知識が必要になります。
AIの出力を確かめ、正しながら使えているかどうか。それは学生だけでなく、AIを業務に取り入れる組織にとっても大切な物差しです。
AIの出力を見極め、使いこなせているか
AIの出力をうのみにせず、確かめて正しながら使えていること。それが、AIを使いこなす組織の条件です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」で、組織の生成AI活用の状況を把握し、育成の優先順位を明確にできます。
研究者ではない学生や一般の人にとって、生成AIを使ううえで最も必要な力は何でしょうか。荒平教授は、AIの実力を最大限に引き出せる質問をする力だと言います。友達に聞くような軽い質問では、誤った答えを引き出すおそれがあります。荒平教授は、このことを授業や研究の場で繰り返し伝えています。
良い質問をするには、聞く内容についての知識と、論理的な文章を書く日本語力が土台になります。荒平教授は、短い文章を書くことにも苦労する学生が増えていると感じており、SNSの短文化の影響も考えられるといいます。それを大学教育で補うべきなのかという点には、もどかしさもあるそうです(生成AIを使いこなすために必要な、理論と実体験の力については、萩原良信准教授の解説記事でも紹介しています)。
| AIを使いこなす土台 | 内容 |
|---|---|
| 質問力 | AIの実力を引き出せる、具体的で筋道の立った問いを立てる力 |
| 日本語力 | 問いや考えを、論理的な文章で表現する力 |
| 知識 | AIの出力の正誤を判断し、必要なら正すための基礎知識 |
| 検証する姿勢 | AIの答えをうのみにせず、自分で確かめる姿勢 |
出典:荒平教授への取材をもとに編集部作成
AIを脅威とも、無条件に答えをくれる存在とも見ず、自分の知識や経験に照らして確かめ、必要なら正す。問われているのは「AIに何をさせるか」よりも、人間が何を考え、問い、確かめるかという学びの質なのです。
A. 荒平教授は、スマートフォン一台でAIが使える今、禁止するのは難しいとしています。教育の方向性は、AIの使用を許容したうえで、伴走者・パートナーとして使い、出力を自分の知識で確かめて正す力を育てる方向に変わっています。
A. 見抜けるかは難しい問題だとしつつ、荒平教授は、AIを使ってレポートを書いた学生は、AIを使わない演習や定期試験で差が出てくると見ています。AIの内容を理解して使う人と、答えを出すためだけに使う人とでは、最終的に差が出るといいます。
A. AIを、間違えることもあるが、ある程度正しいことを示してくれるパートナーとして使うことです。荒平教授は、間違いや足りない点は使う側が正しながら使うことが大切で、そのためには知識が必要だとしています。
A. 荒平教授は、AIの実力を最大限に引き出せる質問をする力を挙げています。そのためには、聞く内容についての知識と、論理的な文章を書く日本語力が土台になります。
A. 企業から提供されたデータや課題を学生が分析し、結果をプレゼンテーションして、企業からフィードバックを受ける形が増えています。荒平教授は、授業の中でPDCAを回す経験が、社会での即戦力につながるとしています。
前編では数理・データサイエンス・AI教育プログラムによる段階的な学びを、中編では企業データの分析やスポーツへの応用といった実践的な学びを見てきました。研究と教育を分けず、AIを道具として生かしながら、人間の側の学びの質を高めていくことが、データサイエンス時代に求められているのです。
AIを「伴走者」にする仕組みづくりを、専門家と一緒に
DEFiDEは、AI/DXコンサルティングと自社SaaSの開発・提供を通じて、企業のAI活用を支援しています。AIに任せる領域と人が確かめ・判断する領域の設計から、活用の定着まで伴走します。
▶ 前編:数理・データサイエンス・AI教育プログラムとは?リテラシーから応用基礎まで、経営と情報を融合する段階的な学び(内部リンク)
▶ 中編:データサイエンスを実践で学ぶには?企業データの分析・発表を「武器」にする少人数教育と、スポーツのコンディショニングへの応用(内部リンク)
▶ インタビュー全文:AIを「伴走者」として生かす力とは――研究・教育の現場から考える、データサイエンス時代の学び(後編)(AI Future Talks)