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反実仮想とは?「もしも」で見えない価値を測るAI|名古屋大学・藤井慶輔准教授

作成者: chai+広報部|Sep 27, 2026, 7:25:10 AM

反実仮想とは、実際には起こらなかった「もしも」を仮定し、実際の結果と比較することで、見えない価値や影響を測る分析手法です。

サッカーで、得点を決めた選手ではなく、相手の守備を引きつけてスペースをつくった選手の貢献は、どう評価すればよいのでしょうか。名古屋大学の藤井慶輔准教授は、AIを使って「もし別の動きをしていたら」を予測し、得点に表れないプレイの価値を明らかにしています。

本記事では、藤井准教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、反実仮想の考え方とAIによる分析の仕組み、ビジネスへの応用、データが少ないときの工夫、説明可能なAIと信頼、そしてAIとの向き合い方を解説します。

この記事でわかること

・反実仮想とは何か、なぜAIが必要なのか

・軌道予測と強化学習による、プレイ価値の評価の仕組み

・経済学や疫学で発達した反実仮想の考え方

・データが少ないときの工夫と、コンピュータビジョンの現在地

・説明可能なAIと、AIを「信用しすぎない」向き合い方

反実仮想とは?――「起きなかったこと」を予測して比較する

プレイの価値を評価するとき、研究室の実験なら、同じ場面でひとつの動きだけを変えて比べることができます。しかし実際の試合では、それはできません。そこで必要になるのが、「起きなかったこと」を予測する反実仮想です。

例えば、「標準的な動きではスペースが生まれなかったが、ある選手が大きく右に走り込んだからスペースが生まれた」という仮説があるとします。これを検証するには、「もし走り込んでいなかったら」という起こらなかった場面をつくって比較する必要があります。これを人が考えた方程式だけで行うのはほぼ不可能なため、AIを使って予測します。

アプローチ 仕組み
軌道予測による比較 選手の位置データで学習したAIが、「もしこう動いていたら」という選手の軌道を生成し、実際の場面と比較する
強化学習 どの行動を選択すべきかを試行錯誤で学習し、どう行動すれば最も得点に近づくかを計算する
シミュレーション シミュレータがあれば、大量の場面を予測して比較する

最終的には、そのプレイが得点の確率の向上にどれだけ貢献したかというレベルで評価します。藤井准教授の研究室では、軌道を生成して比較するアプローチと強化学習のアプローチの両方を研究しています。

反実仮想はビジネスや社会課題にも使われている

聞き手の山本は、経営でも「もし違う選択をしていたら」をシミュレーションできれば有益ではないかと問いかけました。藤井准教授の答えは、反実仮想はむしろビジネスの世界をモデル化した経済学の分野で発達してきたというものでした。

分野 反実仮想の使われ方の例
経済学 企業が市場の状況を見ながら、参入や撤退を判断する意思決定の分析
医学・疫学 ワクチンを誰に打つかといった判断。全く同じ属性の人はいないため、予測が必要
スポーツ 「もし別の動きをしていたら」を予測し、プレイの価値を評価する

スポーツは、こうした分野で発達した手法を応用し始めたという順番です。藤井准教授も、経済学の研究者と共同で研究を行っています。

データが少ないときはどうするか

AIには大量のデータが必要だと思われがちです。データが十分でない場合、藤井准教授はまず、頑張ってデータを集めることを考え、そのうえで今あるデータでどこまでできるかを考えるといいます。

  • 映像は誰でも撮れる時代に:スマートフォンで高画質な映像が撮れるため、アマチュアでも何十試合、何百試合の映像が残っていることがある
  • 課題は映像からのデータ化:コンピュータビジョン技術による自動取得の性能は、まだ6〜7割程度。欠損が多く、一般の人には扱いが難しい
  • 合成データの活用:シミュレータで人工的なデータをつくり、画像認識の性能を高める研究も行っている。ただし、リアルなシミュレータをつくるのはスポーツでは難しい

コンピュータビジョン技術がさらに発達すれば、誰でも映像からデータを自動で取得できる段階に入ると藤井准教授は見ています。一方で、データからどれだけ意味のある知見を引き出すかは、また別の領域の問題です。データの量よりも、そこから価値ある知見を引き出す力が問われます。

説明可能なAIと、AI時代に人間が信頼される理由

AIの分析結果を現場に届けるには、「なぜそう言えるのか」を説明できることが欠かせません。藤井准教授は、数値を出すだけでは現場の人も研究者も納得できない場合が多いため、根拠を可視化したり、言語モデルを活用したりする研究を行っています。人間の経験に基づく説明も、変わらず重要だといいます。

一方で気になるのが、大規模言語モデルの発達で、誰でも「それらしい文章」を作れてしまうことです。嘘や間違いが含まれていれば、「もう信用できない」となってしまいます。

「やはり、責任をもって検証できる人間が、まだ信用される場合もあるのというのが現状かなと思います。」

――藤井准教授

ファクトチェック自体は、優れたAIを使えばそれなりのレベルでできるようになり、今後も向上していくでしょう。しかし、AIは責任を取るわけでも、一貫性や組織へのコミットメントを持つわけでもなく、その場その場で良さそうな答えを出すだけです。意思決定者にとっては参考になっても、全面的には信用できない――その理解が、一般のビジネスパーソンにも求められます。

実際、企業も同じ懸念を抱えています。帝国データバンクの2026年3月の調査では、生成AIを活用する企業の懸念として最も多かったのは「情報の正確性」(50.4%)でした。

調査項目(生成AIに関する企業の動向調査) 結果
生成AIを業務で「活用している」企業 34.5%
懸念・課題:「情報の正確性」 50.4%(最多)

出典:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(有効回答1万312社)

AIを「信用しすぎず、使いこなす」――将棋界に学ぶ

「競合他社が入れているから、わが社もAIを」――聞き手の山本は、AIが過大評価されているように映ると問いかけました。藤井准教授の答えは明快です。

「やはり、「信用しすぎるな」と言いたいです。」

――藤井准教授

かといって、今はAIを使わないという選択肢はないとも言います。調べ物や数学、プログラミングなど、多くの人より優れた領域がすでにいくつも出てきているからです。問題は、それを人間とどう組み合わせるか。AIの出力を鵜呑みにせず、疑うところを残しながら、AIが得意なところを理解して上手に使うことで、人間の技術やスキルも伸びていきます。

その代表例が将棋です。人間より強いAIを活用することで、人間がどんどん強くなっている。AIが得意なことを人間がする必要はなく、使い方を理解して自分の成長につなげることが求められています。

組織は、AIを「使いこなせて」いるか

AIを信用しすぎず、かといって使わないのでもなく、得意なところを見極めて成長につなげる。その第一歩は、組織の中でAIがどう使われているかを知ることです。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」で、組織の生成AI活用の状況を把握し、次の打ち手を明確にできます。

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若い世代へ――「今までできなかったことができる時代」と捉える

AIが得意な領域が増え、無視できない時代になりました。大変な時代とも言えますが、藤井准教授は、今までできなかったことができるようになる時代だと捉えれば、可能性は大きく広がると語ります。

これからは、ますますAIを存分に使える時代になります。上の世代にはできなかったことが、若い世代にはできる。捉え方次第で、非常に面白い時代です。過剰に期待するのでも、悲観するのでもなく、適切に捉えて活用してほしい――それが、藤井准教授から若い世代へのメッセージです。

よくある質問(FAQ)

Q. 反実仮想とは何ですか?

A. 反実仮想とは、実際には起こらなかった事象について「もし〇〇だったらどうなっていたか」を仮定して考える思考法や分析手法です。スポーツでは、同じ場面でひとつの動きだけを変えて比較することができないため、AIを使って「起こらなかった場面」を予測し、実際のプレイと比較することでその価値を測ります。

Q. スポーツでは反実仮想をどう使いますか?

A. 例えば、ある選手が大きく走り込んだことでスペースが生まれたという仮説を検証するには、「もし走り込んでいなかったら」という場面との比較が必要です。藤井准教授の研究では、選手の位置データで学習した軌道予測で起こらなかった場面を生成したり、強化学習で得点に最も近づく行動を計算したりして、比較を行っています。

Q. 反実仮想はビジネスにも応用できますか?

A. 藤井准教授によると、反実仮想の考え方は、むしろ経済学で発達してきました。企業が市場の状況を見ながら参入や撤退を判断する意思決定の分析などに使われており、医学や疫学でも用いられています。スポーツは、それらの分野の手法を応用し始めたという順番です。

Q. データが少ない場合、AI分析はどうすればよいですか?

A. 藤井准教授は、まずデータを集めることを考え、そのうえで今あるデータでどこまでできるかを考えるとしています。スマートフォンで高画質な映像が撮れるようになり、コンピュータビジョン技術でデータを自動取得できる段階に近づいています。シミュレータで作った合成データで画像認識の性能を高める研究も行われています。

Q. AIはどこまで信頼してよいですか?

A. 藤井准教授は「信用しすぎるな」と述べる一方、AIを使わないという選択肢はないとしています。AIは調べ物や数学、プログラミングなどで多くの人より優れた面がありますが、その場その場で良さそうな答えを出すだけで、責任や一貫性を持つわけではありません。得意なところを理解して使い、出力を鵜呑みにしない姿勢が重要です。

まとめ:「もしも」を比べ、AIを成長のパートナーに

  • 反実仮想とは、起こらなかった「もしも」を仮定して比較し、見えない価値を測る分析手法
  • スポーツでは、軌道予測や強化学習で「別の動きをしていたら」を予測し、プレイの価値を評価する
  • 反実仮想は経済学や医学・疫学で発達した考え方で、ビジネスの意思決定にも使われている
  • データの量より、そこから意味ある知見を引き出す力が問われる
  • AIは「信用しすぎず、使わないのでもなく」。得意を理解して、自分の成長につなげる

AIが見えなかった価値を可視化しても、その意味づけや最終的な判断は人間の役割として残り続けます。恐れず、過信せず、AIを自らの成長の道具として使いこなす姿勢が、これからの時代を切り拓きます。

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