確率的生成モデルとは、現実世界のデータがどのように生まれるかを確率でモデル化する手法です。少ないデータと計算資源でも学習でき、実世界の不確実性を扱えるのが強みです。
大規模なAIには、大量のデータと高性能な計算資源が欠かせないと思われがちです。創価大学の萩原良信准教授は、ロボットが自ら環境の知識を獲得する研究で、確率的生成モデルを活用しています。さらに、日本のロボティクスがイノベーションを生むには、技術的な限界への挑戦を支える文化が必要だと語ります。
本記事では、萩原准教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、確率的生成モデルの仕組みとニューラルネットワークとの違い、ロボットが「場所」を学ぶ仕組み、日本にイノベーションを生むために必要なこと、そしてAIを万能視しない姿勢について解説します。
この記事でわかること
・確率的生成モデルとは何か、ニューラルネットワークとの違い
・ロボットが複数のセンサーで「場所」の概念を学ぶ仕組み
・日本のロボティクスに必要な「技術的な限界への挑戦」
・問題設定を下げず、失敗を楽しむ文化の大切さ
・AIやビッグデータは万能ではない――最後に判断するのは人
確率的生成モデルでは、データが従う確率分布の形を、開発者があらかじめ仮定します。例えば、平均値を中心とした釣鐘型の「ガウス分布」や、複数のカテゴリーの出現頻度を表す「多項分布」などです。分布の構造を仮定することで、学習すべきパラメーターの数を抑え、比較的少ないデータからでも安定して学習できます。
| 確率的生成モデル | ニューラルネットワーク | |
|---|---|---|
| 考え方 | データが従う分布の形を仮定する | 分布の表現力を高め、データから柔軟に学ぶ |
| 必要なデータ・計算資源 | 比較的少なくて済む | 大量のデータと計算資源が必要 |
| 精度 | 仮定した分布の範囲で安定して学習できる | 細部まで正確に学習でき、誤差が小さくなる場合もある |
| 実世界の不確実性 | 確率として扱いやすい | パラメーター数が膨大になり、学習環境の確保が課題 |
一般的な研究室では、GPUが不足してニューラルネットワークの学習が難しいケースも少なくありません。限られたデータと計算資源で、実世界の不確実性を扱えることが、確率的生成モデルの大きな価値です。
| 用語 | 意味(一文定義) |
|---|---|
| 確率的生成モデル | 現実世界のデータがどのように生まれるかを確率でモデル化したもの |
| ベイズ推論 | 観測されたデータと事前の知識を組み合わせて、確率を推定する統計的な方法 |
| パラメーター | 機械学習のモデルが予測を行うための内部の変数 |
| LiDAR | レーザー光を対象物に当てて、距離や形状を測る技術 |
前編で紹介したように、LLMでロボットの行動を計画するには、環境に関する知識を与える必要があります。その知識をロボット自身が獲得するのが、萩原准教授の場所概念獲得モデルです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 観測する | カメラ、マイク、LiDARなど複数のセンサーで、画像、音声、距離などの情報を得る |
| ② 推定する | 観測データの背後にある「場所のカテゴリー」を、ベイズ推論によって推定する |
| ③ 予測する | 画像から自分の位置を予測する、位置を表す単語を予測する、物を片付けるべき場所を予測する |
人間の子どもが成長の過程で五感を通じて周囲の世界を理解していくように、ロボットも複数のセンサー情報を通じて、自律的に環境の知識を獲得していきます。別の場所に移動しても、その場で得たセンサー情報をもとに空間を区切りながら、その環境に固有の構造を学習していきます。
かつてロボット先進国と呼ばれた日本は、今も通用するのか。萩原准教授は、日本は「真面目に役に立つもの」「実際に必要とされるもの」を着実に作ってきたと評価します。その結果、精度と信頼性の高い製品を生み出し、自動車やロボットの分野では今も世界から評価されています。
一方で、スマートフォンや対話型の生成AIは、「最初から明確に役に立つから作られた技術」ではありません。むしろ、技術的な限界に挑戦する過程で生まれたものです。生成AIは、モデルを大規模化し、より多くのデータで学習させるほど賢くなるという「スケール則」のもとで大規模化を突き詰めた結果、ある臨界点を超えてブレイクスルーが起き、社会や産業のあり方を大きく変えました。
| これまでの日本の強み | これから必要なこと | |
|---|---|---|
| 技術開発の姿勢 | 役に立つもの、必要とされるものを着実に作る | 技術的な限界に挑戦する |
| 評価の仕方 | 短期的な成果、確実に動くこと | 長期的な視点で挑戦を応援し続ける |
| 失敗への向き合い方 | 失敗を避ける | 失敗を含む試行錯誤を次の挑戦につなげる |
海外のロボットのイベントでは、失敗例も含めて報道される一方、その試行錯誤が次の挑戦につながりやすい環境があるように見えるといいます。資金の量だけでなく、挑戦に対する評価の仕方に違いがある――日本には、挑戦を長期的に支える仕組みを厚くしていく余地があると萩原准教授は指摘します。
ロボット競技会やデモンストレーションでは、予算を獲得するために「よく見える成果」を意識し、問題設定を低くする方向に流れやすいといいます。そうすればロボットはトラブルなく動き、見た目には「うまくいっている」ように見えます。しかし、それでは既存の技術で確実にできる範囲に課題を落としただけで、イノベーションは生まれません。
「問題意識を下げて無難にまとめるのではなく、あえて難しい課題に挑む。その姿勢が次のイノベーションにつながるのだと思います。」
――萩原准教授
象徴的なのが、ロボカップに真剣に取り組む人たちの姿勢です。思い通りに動かないロボットの原因を一つひとつ検証し、粘り強く試行錯誤を重ねる――そのプロセスこそが一番面白いと、多くの競技者が言います。最初から動くことがわかっているなら、驚きも発見もありません。わからないこと、できないことに正面から向き合い、それを楽しめる人がもっと増える必要があると萩原准教授は語ります。
萩原准教授は、玉川大学の講義でゲストスピーカーとしてビッグデータを扱っています。急速に変化する技術に追いつくには、基礎を学ぶだけでなく、最新の技術に触れながら自分なりの問題意識を持つことが重要だからです。
学生がAIに頼る状況は確かにあると萩原准教授は言います。そこで、レポートを提出させるだけでなく、「この内容を自分の言葉で説明してください」と求めるようにしています。
「AIを使うこと自体が悪いわけではありませんが、最終的に理解し、判断するのは人間です。」
――萩原准教授
AIが出した結果を自分の言葉で説明できるかどうか。それが、AIを道具として使いこなせているかを見極める一つの物差しになります。
AIを「万能」と捉えず、使いこなせているか
AIの出力を理解し、自分の言葉で説明できる。それが、AIを使いこなす組織の条件です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」で、組織の生成AI活用の状況を把握し、育成の優先順位を明確にできます。
A. 確率的生成モデルとは、現実世界のデータがどのように生まれるかを確率でモデル化する手法です。データが従う分布の形(ガウス分布など)を開発者があらかじめ仮定することで、学習すべきパラメーターの数を抑えられ、比較的少ないデータと計算資源でも安定して学習できるのが特徴です。
A. ニューラルネットワークは分布の表現力を高めた手法で、細部まで正確に学習でき、誤差が小さくなる場合もあります。一方で、パラメーター数が膨大になるため、大量のデータと計算資源が必要です。確率的生成モデルは、分布の形を仮定することで、少ないデータでも学習でき、実世界の不確実性も扱いやすいという強みがあります。
A. 萩原准教授の場所概念獲得モデルでは、ロボットがカメラ、マイク、レーザー距離センサーなど複数のセンサーで環境を観測し、そのデータの背後にある「場所のカテゴリー」をベイズ推論で推定します。子どもが五感で周囲を理解していくように、ロボットが自律的に環境の知識を獲得し、画像から自分の位置や物を片付けるべき場所を予測できるようになります。
A. 萩原准教授は、日本は信頼性の高い、役に立つ技術を着実に積み上げてきた一方で、技術的な限界への挑戦を長期的に支える仕組みや、失敗を許容し挑戦を評価する文化が弱いと指摘しています。成果を見せるために問題設定を低くすると、研究は小さくまとまり、新しい価値が生まれにくくなります。
A. 萩原准教授は、AIを使うこと自体は悪くないとしたうえで、レポートを提出させるだけでなく「この内容を自分の言葉で説明してください」と求めています。最終的に理解し、判断するのは人間であることを意識してほしいと述べています。
後編では、生成AIに「使われる側」にならないために必要な力――実体験から問いを立てる力と理論の力、そして日本が拓く「パートナーロボット」の未来について伺います。
「小さく、しかし挑戦的に」試すところから
失敗を恐れて課題を小さくしすぎず、かといって大きな投資で失敗できない状況もつくらない。DEFiDEでは、AI/DXコンサルティングを通じて、挑戦的な目標を小さな実証から検証していく取り組みを伴走します。
▶ 前編:生活支援ロボットとは?「言葉を理解して動く」ロボットを実現する記号創発ロボティクス
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