AI Future Talks Insignt

スポーツAI・観光AIとは?AIと創造性の最前線|京都橘大学・松原仁教授

作成者: chai+広報部|Sep 27, 2026, 4:49:48 AM

スポーツAIとは、AIやデータを活用して、選手やチームの競技力を高めたり、観客がスポーツをより楽しめるようにしたりする研究・技術です。

AIというと、産業の効率化や生産性向上に目が向きがちです。しかし、物質的な豊かさから心の豊かさへと価値が移る中で、AIが人々を幸せにできる領域は広がっています。第15代人工知能学会会長を務めた京都橘大学の松原仁教授は、スポーツや観光、そしてAIの創造性に挑み続けてきた研究者です。

本記事では、松原教授へのインタビュー(聞き手:デフィデ株式会社 代表 山本哲也)をもとに、スポーツAIと観光AIの研究、AIに創造性は宿るのかという問い、そして2026年に開設された京都橘大学工学部ロボティクス学科が掲げるAIロボティクス教育を解説します。

この記事でわかること

・スポーツAIとは何か、日本のスポーツ界でのデータ活用の課題

・観光情報学とオーバーツーリズム対策へのAIの活用

・AIに創造性は宿るのか――「それなりに」という答え

・「何をさせたいか」から発想するAIロボティクス教育

スポーツAIとは?「心を豊かにする」AI研究

松原教授は一貫してAIを研究しながら、そのテーマを次々と広げてきました。京都橘大学に赴任してから力を入れているのが、スポーツ情報学(スポーツに関する情報を体系的に整理し、データを活用してスポーツの発展に寄与する学問)です。情報処理学会にスポーツ情報学の研究会を立ち上げ、その主査も務めています。

用語 意味(一文定義)
スポーツ情報学 スポーツに関する情報を体系的に整理し、データを活用してスポーツの発展に寄与する学問
スポーツAI AIを使って選手・チームの競技力や、観客の楽しさを高める研究・技術
観光情報学 観光と情報技術を融合し、観光サービスのデザインや改善を目指す学問領域
オーバーツーリズム 観光客が特定の地域に過度に集中し、住民生活や環境、観光体験に悪影響を与える現象

スポーツAI研究の出発点は、公立はこだて未来大学時代に北見工業大学の研究者と始めたカーリングAIです。今も続けているこの研究を通じて、スポーツの面白さに気づいたといいます。

「スポーツAIが世の中に直接役に立つわけではないものの、皆を幸せにするという意味では「非常に素晴らしいな」と思って取り組んでいます。」

――松原教授

京都橘大学はサッカーやバレーボールが強く、大学のスポーツ全般の研究を通じて学生のパフォーマンス向上を支援しながら、研究に必要なデータも得られる舞台になっています。

日本のスポーツ界に足りないのは「組織的なデータ活用」

競技力向上の施策を検討する場にAIの専門家として出席した松原教授は、ヨーロッパや米国に比べて日本は「AIを使おう」と唱えてはいても、実際にデータを集めて分析する段階では、まだ組織的に行われていないと指摘しました。一方で、2026年のミラノ・コルティナ冬季五輪で活躍した日本人選手の練習では、AIを搭載したカメラやセンサーが使われていたと聞いているといいます。最先端のテクノロジーを組織的に活用できるかどうかが、今後の競技力を左右します。

観光情報学とオーバーツーリズム――AIで多くの人が幸せになる解を探す

もう一つの柱が観光情報学です。以前いた函館も観光の街でしたが、京都に赴任したことを機に、オーバーツーリズムの研究を始めました。関係者の話を聞きやすく、データも取りやすい環境にあります。

日本政府観光局(JNTO)によると、2025年の訪日外客数は約4,268万人と初めて4,000万人を超え、過去最高を更新しました。観光客の増加に伴い、特定の地域への集中は各地で課題になっています。

年 訪日外客数
2024年 約3,687万人
2025年 約4,268万人(過去最高・前年比15.8%増)

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」(2026年1月21日発表)

ただし、オーバーツーリズムは簡単に解消できる問題ではありません。ある施策を実施したから解消した、とは言いにくい領域で、しかも住民、事業者、観光客など多くのステークホルダーがいます。それでも京都を題材に、できるだけ多くの人が幸せになる形での解消策を考えることに、松原教授は関心を寄せています。

「データから需要を読む」AIを業務に

観光やスポーツに限らず、データから需要や人の動きを読み取ることは、あらゆるビジネスの基盤です。DEFiDEの社内業務クラウド「SmartOps」は、過去の実績データから将来の需要を予測する機能や、AIエージェント、RAGなどを備えた業務基盤です。基本機能はずっと無料で、必要な機能だけを追加できます。

▶ SmartOpsの機能を見る(基本機能はずっと無料)

AIに創造性は宿るのか――「それなりに」という答え

松原教授は、「きまぐれ人工知能プロジェクト」や、AIと人間で漫画を共創する「TEZUKA2020」「TEZUKA2023」などを通じて、AIが創造性を発揮できるかという問いに挑んできました。

出発点の仮説は、創造性は特殊な能力ではなく、人間が多かれ少なかれ持っている能力であり、AIも「それなりに」対応できるのではないかというものでした。

創造性のレベル AIとの関係
天才的な創造性(歴史に残る芸術家や作曲家のような作品) AIが同じように生み出せるかは別の問題
普通の意味での創造性(人間が普遍的に持つ、理屈に基づいた能力) AIも「それなりに」発揮できる。最近の生成AIの能力は、この仮説を裏付けている

「理屈に基づいている限りは、AI も「それなりに」できるはずです。」

――松原教授

答えはまだ道半ばとしながらも、松原教授は次の挑戦として、ベンチャー企業とともに映画の脚本づくりに取り組んでいます。コロナ禍の初期にはAIが生成した脚本をもとに短い映画を試作しており、今回はより本格的なレベルを目指しています。AIで作った脚本から商業映画が生まれれば素晴らしい、と松原教授は語ります。

「何をさせたいか」から発想するAIロボティクス教育

2026年4月、京都橘大学に工学部ロボティクス学科が開設されました。進歩したAI、特に生成AIなどのディープラーニングをロボットに搭載するAIロボティクスの時代を迎え、松原教授が長年夢として描いてきた「鉄腕アトム」を実際に作れるのではないかという時代になっています。

同学科では、ロボットの作り方や最先端のAIを学ぶだけでなく、賢くなったロボットに何をさせるかを考えることを重視しています。ロボット系の技術者は、まず作ることを優先し、作ってから使い道を考えがちです。それも悪くはありませんが、最初から用途を考えるのが同学科のスタンスです。

「『ロボットに何をさせたいのか』。それを若い人のアイデアで導き出していきたいのです。」

――松原教授

ロボティクス分野は男子学生が大半になりがちですが、女性や文系の視点を取り入れて、人とロボットがどう関わるかに焦点を当てた、新しいロボットの使い方を世の中に示したいと松原教授は考えています。工学部にはロボット工学の第一人者である石黒浩氏が客員教授として参画するなど、各分野の第一線の研究者・実務家が名を連ねています。

よくある質問(FAQ)

Q. スポーツAIとは何ですか?

A. スポーツAIとは、AIやデータを活用してスポーツを進化させる研究・技術です。選手やチームの競技力を高めることに加え、観客がスポーツをより楽しめるようにすることも含まれます。松原教授は、函館時代にカーリングのAI研究を手がけ、現在は京都橘大学でスポーツ全般のAI研究に取り組んでいます。

Q. 日本のスポーツ界でのAI・データ活用は進んでいますか?

A. 松原教授は、ヨーロッパや米国に比べて、日本ではAIの活用が一般論として唱えられていても、実際にデータを集めて分析する段階ではまだ組織的に行われていないと指摘しています。競技力を持続的に高めるには、データ活用の体制強化が必要だとしています。

Q. 観光情報学とは何ですか?

A. 観光情報学とは、観光と情報技術を融合させ、観光サービスのデザインや改善を目指す学問領域です。松原教授は京都で、観光客が特定の地域に集中して住民生活や観光体験に悪影響を与えるオーバーツーリズムの研究に取り組み、できるだけ多くの人が幸せになる解消策を探っています。

Q. AIに創造性はありますか?

A. 松原教授は、創造性は神がかった特殊な能力ではなく、人間が多かれ少なかれ持っている理屈に基づいた能力だと考えています。そのため、天才的な芸術家のような創造は別として、普通の意味での創造性はAIも「それなりに」発揮でき、最近の生成AIの能力はその仮説を裏付けているとしています。

Q. AIロボティクスとは何ですか?

A. AIロボティクスとは、生成AIなどのディープラーニングをはじめとする進歩したAIをロボットに搭載する分野です。京都橘大学工学部ロボティクス学科では、ロボットを作る技術に加え、「賢くなったロボットに何をさせたいのか」を最初から考える教育を掲げています。

まとめ:AIは産業だけでなく、人の心を豊かにする

  • スポーツAIは、競技力と観戦の楽しさを高め、人々を幸せにするAI研究。日本は組織的なデータ活用が課題
  • 観光情報学では、京都のオーバーツーリズムを題材に、多くの人が幸せになる解消策を探っている
  • 創造性は理屈に基づいた能力であり、AIも「それなりに」発揮できる。映画脚本づくりにも挑戦中
  • AIロボティクス教育では、「何を作るか」より先に「何をさせたいか」を問う

中編では、生成AI時代に大学教育はどう変わるべきか、「人に寄り添うAI」の現在地、そしてAIと共に生きるために人間が磨くべき3つの力について伺います。

「AIに何をさせたいか」から、一緒に考えませんか

AI活用で成果を出す出発点は、技術ではなく「何をさせたいか」を明確にすることです。DEFiDEでは、AI/DXコンサルティングを通じて、目的の整理から活用方法の設計、小さな実証まで伴走します。

▶ AI/DXコンサルティングの無料相談はこちら

▶ 中編:生成AI時代に人間が磨くべき3つの力とは?

▶ インタビュー全文:生成AI時代に人間は何を磨くべきか(前編)