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朝霧が漂う草原の中央に立つ一本の木と、その背後から差し込む日の出の光芒_sp

2026.10.27

AIを「伴走者」として生かす力とは――研究・教育の現場から考える、データサイエンス時代の学び(前編)

機械工学を皮切りに、生体工学やバイオマテリアルを研究し、現在はAI・データサイエンスを研究と教育の双方に取り入れる九州情報大学教授・荒平高章氏。学生一人ひとりとの距離が近い少人数教育を生かし、企業の実データを使った分析や発表など、実践的な学びにも取り組んでいる。さらに生成AIの普及を受け、教育現場では「使わせない」のではなく、AIを伴走者として活用し、その出力を自ら評価・修正する力を育てることが重要だと語る。AIを使いこなすために必要なのは、ツールの操作だけではない。適切な問いを立てる力、その土台となる日本語力や知識、そして自ら考え検証する姿勢である。研究と教育の両面から、AI時代に求められる学びの本質を聞いた。前編では、荒平先生の専門分野や研究スタイルの特徴などを紐解いていく。 

荒平氏_プロフィール画像

九州情報大学 経営情報学部 教授 
荒平 高章氏 

PROFILE

2008年3月:九州工業大学情報工学部機械情報工学科 卒業 学士(情報工学) 
2010年3月:九州大学総合理工学府物質理工学専攻 修了 修士(工学) 
2013年3月:九州大学総合理工学府物質理工学専攻 修了 博士(工学) 
2013年4月~2019年3月:福岡歯科大学, 歯科医療工学講座生体工学分野, 助教 
2019年4月~2022年3月:九州情報大学, 経営情報学部, 専任講師  
2022年4月~2025年3月:九州情報大学, 経営情報学部情報ネットワーク学科, 准教授  
2025年4月~現在:九州情報大学, 経営情報学部情報ネットワーク学科, 教授  

 

 

 

【こんな方に、ぜひ読んでいただきたい】

 

①生成AIやデータサイエンスを大学教育にどう位置づけ、学生の専門性や将来の進路につながる学びへどう落とし込むかを考える、大学教職員や教育関係者。 

② デジタル人材の育成を座学だけで終わらせず、実データの分析や企業との連携、PDCAを通じて実践力へつなげたい人材育成・DX担当者。 

③生成AIを業務や研究に取り入れたい一方、AIの出力をどう評価し、人間側にどのような知識や問いを立てる力が必要なのかを知りたい経営者・実務家。 

 

 

【前編のエッセンス】

 

九州情報大学の荒平高章教授は、機械工学を出発点に、生体工学・バイオマテリアルを軸とした骨再生研究を進めてきた。一方、近年はAI・データサイエンスを研究や教育へ積極的に取り入れ、学生とともに新たなテーマにも挑戦している。研究では、過去の失敗を教訓に複数条件を同時に検証し、試行錯誤を重ねる姿勢を重視する。九州情報大学では、経営と情報を融合した人材育成を目指し、数理・データサイエンス・AI教育を早期から展開。リテラシーレベルから応用基礎レベルまで、学生の専門性に応じた学びを提供している。 

 

 

【前編のキーメッセージ】

 

キーメッセージ① 

機械工学から生体工学へ研究領域を広げ、骨再生やバイオマテリアルを対象に、工学と医学をつなぐ研究を続けてきた。 

 

キーメッセージ② 

AIを研究の新たな道具として積極的に取り入れ、画像認識やデータ処理に加え、教育者や学生を支援するAI活用の研究にも取り組んでいる。

 

キーメッセージ③ 

九州情報大学では、経営と情報の融合を軸に、リテラシーから応用基礎まで段階的な数理・データサイエンス・AI教育を展開している。 

01

機械工学を出発点に、骨再生とAIをつなぐ研究へ

山頂の岩場に立ち、山並みに沈む夕日(または昇る朝日)を眺める登山者のシルエット

―荒平先生のご専門分野と研究テーマをご紹介ください。 

もともとは機械工学を専門とする工学系の出身です。学部では機械系を学び、大学院に進学してから、現在の研究分野である生体工学(バイオエンジニアリング:生物が有する機能や構造を解析し,それを人工的に再現して利用しようとする学問)に出会いました。それ以降は、バイオエンジニアリングに関する研究を展開しています。 

特に、生体の中でも骨の再生に着目し、さまざまな観点から研究を行っています。具体的には、コンピューターシミュレーションを使った解析のほか、実験では骨のような組織を実際に作製し、その力学的なメカニズムを明らかにする研究などを続けてきました。 

最近はAIやデータサイエンスといったテーマが急速に立ち上がってきており、AIをうまく活用すれば自分の研究もさらに進むだろうと考え、画像認識やデータ処理にAIを取り入れています。一方で、大学の教員という立場もあり、AIやデータサイエンスを主なツールとする研究も展開しています。こちらはバイオエンジニアリング以外のテーマで、DXにも関係します。 

私は高校の教員免許も持っており、教育の面にもAIの影響が大きいと感じています。そこで、教育者の業務負担を軽減するようなAIによるサポートができないか、あるいは小学生・中学生・高校生向けのAIを使った教育用教材を作れないか、といったことを学生と一緒に考え、研究しています。 

大きく分けると、バイオエンジニアリングの研究と、AI・データサイエンスを駆使して学生と共同で進める研究の二本柱で取り組んでいます。 

 

  

 大学院修士課程の学生との写真

 

 

―教員免許もお持ちとのことですが、学生の頃は高校や中学の先生になろうという想いをお持ちだったのですか。

 

はい。実は学部を卒業したら、そのまま高校の教師になろうと思っていました。夏の教員採用試験の直前ごろまでは、受験するつもりで勉強していました。

ただ、当時、私の家は大家族で、祖父母と一緒に暮らしていました。祖父母が年を取って体が思うように動かなくなってくる中で、何かサポートできないかと考えるようになりました。そこで、工学的な視点と医学的な視点をうまく組み合わせた研究ができないかと探していたところ、大学院の研究室が見つかりました。先生に連絡を取ると受け入れていただけることになり、そのまま大学院に進みました。生前、最後まで祖父母は私のやっていることを応援し、周囲にも「自慢の孫だ」と話すことが生きがいだったようで、今でも私の研究活動の原動力となっています。

02

AIの可能性を生かし、研究と教育の新たな領域を開く

―荒平先生の研究キーワードは、ライフサイエンス、バイオメカニクス、ものづくり技術、材料力学、情報通信、医療情報学(医療における膨大な診療情報・ゲノム情報などを情報学・情報技術で処理し、医療の質向上や効率化を目指す学問領域)などと非常に幅広いですね。データサイエンスの知見をバイオテクノロジーに応用し、医療系の分野に貢献することにも力を入れていらっしゃるということでしょうか。

 

そうですね。AIの技術は日進月歩で、毎日どんどん進化しています。これまでできなかったことができるようになってきており、私の分野ではありませんが、創薬や遺伝情報の解析など、従来のPCのスペックや計算量では難しかった領域でも、AIによって可能になってきています。研究を前に進めるという意味で、AIツールは使わない手はないと考え、積極的に活用しようと思っています。

 

ただ、AIは大変便利な一方で、解釈がしにくく、工程が見えないブラックボックスになっているという点も最近よく指摘されています。そうした部分を明らかにしながら上手に付き合っていくことが重要だと思いますが、AIの技術そのものは素晴らしいので、有効に活用していきたいです。

 

―学歴を拝見すると、九州工業大学では機械情報工学を、九州大学大学院では物質理工学を専攻されています。一方、キャリアのスタートは福岡歯科大学とのこと。歯科大学というのは少し意外でした。どのような経緯だったのでしょうか。

 

私は大学院の修士・博士課程を通じて、生体の中に使う材料、つまりバイオマテリアル(生体材料。具体的には人工関節やデンタルインプラント、人工骨および人工血管用の素材など)を研究していました。その中で骨に関する研究を行っていたのですが、歯科の分野も顎骨(あごの骨)をはじめ、骨に関わる部分が非常に多いのです。学会などで歯科の先生方と議論する機会もありました。

 

また、博士課程の頃には、実験手技として材料の作り方を学ぶために、九州大学歯学部の教授のもとへ通っていました。その先生のお知り合いが福岡歯科大学にいらっしゃり、助教のポストを探しているということで、当時の指導教員に相談がありました。そこから、歯科大学でキャリアをスタートすることになりました。

 

―その後、現在の九州情報大学に移られたのですね。

 

はい、その通りです。

 

―荒平先生の研究のスタイルやアプローチで、何か特徴はありますか?

 

私が特に気をつけているのは、できる限り複数の条件を同時に進めることです。学生時代に一つの実験条件だけで進めていて、うまくいかなかったことがありました。それまでの時間が、実験データが出ないまま無駄になってしまった経験があります。

 

その失敗を繰り返さないよう、博士課程に進学してからは、考えられる条件を複数同時に動かしながら検討するようにしています。トライアンドエラーも重ねつつ、実験を続けています。

 

これまでの研究成果が実を結び、2022年には文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。家族はもちろんですが、学長をはじめとする本学の教職員の方々から祝福の言葉をいただきました。特に、学長は大変喜んでくれました。このことがさらに、本学における教育・研究活動を加速させていったと思います。

 

  

 学長による「若手科学者賞」授与(当時コロナ禍で表彰式は実施されず)

03

経営と情報を融合し、実践的なデータサイエンス教育を展開

青空を背景に寄り添うように咲く2輪のピンクのガーベラ

―ここまでは、荒平先生の研究分野やキーワード、これまでのバックグラウンドを中心にお伺いしました。ここからは、現在所属される大学や学部に関する質問をさせていただきます。九州情報大学におけるデータサイエンス教育の現状と、貴学ならではの特色をお聞かせください。

 

九州情報大学は、一学部二学科の非常に小さな大学です。一学科の定員が50名で、一学年100名程度の学生で構成されています。二つの学科は経営情報学科と情報ネットワーク学科で、経営情報学科は文系の学生が多く、情報ネットワーク学科は理系の学生が多い学科です。

 

少人数の大学ですので、必修科目を除き、授業はできるだけ20名未満の比較的少ない人数で構成しています。学生一人ひとりに寄り添った教育を行っているのが特徴です。

 

データサイエンスという言葉が広まってきたのは近年ですが、2019年6月に文部科学省から、数理・データサイエンス・AI教育を、基礎的な「リテラシーレベル」(デジタル社会の基礎的な素養としての初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得することを目指す)から「応用基礎レベル」(自らの専門分野において、数理・データサイエンス・AI教育を応用・活用することができる応用基礎力を習得することを目指す)まで、各大学が特色を出した教育プログラムとして運営してほしいという通達がありました。本学では、それより前の2019年4月の時点で、すでにデータサイエンスコースを運営していました。

 

本学の教育理念は、経営、情報、そして会計という三つの柱をうまく融合させた人材を育て、輩出することです。データサイエンス教育でも、それぞれの大学が特色ある教育プログラムを出しており、本学ではKIISの数理・データサイエンス・AI教育プログラムを文部科学省に届け出ました。KIISは、九州情報大学の英語表記であるKyushu Institute of Information Sciencesの頭文字を取ったものです。その結果、「リテラシーレベル」と「応用基礎レベル」の二つのレベルで、文部科学省の認定を受けています。

 

「リテラシーレベル」は2019年から早期に申請し、九州の中でも早い段階から運営している大学の一つです。「応用基礎レベル」についても、九州では一桁に入るほど早い段階で国の認可を受けて運営しています。

 

リテラシーレベルの教育プログラムの特徴は、経営と情報の両方をバランスよく学べることです。情報に関する基礎的な科目と、経営に関する基礎的な科目をそれぞれ履修することで、本学のリテラシーレベルが認定されます。

 

一方、「応用基礎レベル」は、「エキスパート」(データサイエンス・AIを駆使してイノベーションを創出し世界で活躍できるレベル)とまではいかなくとも、本学のトップクラスの学生にAIを含めた高度な知識を身につけてもらうことを目的としています。情報やプログラミング、データサイエンス、人工知能に関する科目を履修・習得することで認定されるプログラムです。

 

ですので、本学のデータサイエンス教育は、特色である経営と情報を融合させた人材を輩出することを目的に設計されている、と理解していただければよいかと思います。

04

「学生の専門性に応じ、AI・データサイエンス教育を段階的に展開

―整理しますと、経営情報学部の中に二つの学科があり、一つは経営情報学科、もう一つは情報ネットワーク学科ですね。そして、情報ネットワーク学科の中に二つのコースがあるということでよろしいでしょうか。

 

はい。ITエンジニアコースとデータサイエンスコースがあります。ITエンジニアコースではITシステムの仕組みを理解してITエンジニアを養成し、データサイエンスコースではビッグデータの解析を中心に学んでいます。

 

―荒平先生は、情報ネットワーク学科の二つのコースを両方ご担当なのですか?

 

いいえ、私はデータサイエンスコースに所属しています。

 

―データサイエンスコースなのですね。ところで、数理・データサイエンス・AI教育の認定校は、今どのくらいあるのでしょうか。

 

数はすぐには出てきませんが、ほぼすべての大学が、少なくとも「リテラシーレベル」の認定を申請してほしいという流れになっていて、ここ数年は多くの大学が申請していると思います。

 

【参考】数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 認定及び選定件数(文部科学省の発表。令和8年8月時点)

「リテラシーレベル」認定 655件(認定を受けている大学等数は653校)

「応用基礎レベル認定」421件(いずれかの単位で認定を受けている大学等数は288校)

 

―貴学では「リテラシーレベル」は全学生が履修可能で、「応用基礎レベル」は基本的に情報ネットワーク学科の学生に向いているものの、経営情報学科の学生も、学ぼうと思えば学べる環境にあるわけですね。

 

はい、おっしゃる通りです。

 

―実際に、経営情報学科の学生から「学ばせてください」と手を挙げてくる方はいますか。

 

過去にはいます。2019年から約7年運用していますが、経営情報学科で「応用基礎レベル」まで修了した学生は一名だけです。

 

―やはりハードルが高いのでしょうか。

 

難易度というより、「応用基礎レベル」を取得するには、情報ネットワーク学科に置かれた科目を相当数履修する必要があるためです。その中には、経営情報学科の卒業単位に含まれない科目もあります。そのため、こうした教育プログラムを修了したいという学生と、卒業を目指す学生とで、意識に差があるのかなと感じています。

 

―かなり実践的なカリキュラム編成になっているのでしょうか。

 

「リテラシーレベル」は総論的な科目を集めており、経営系とデータサイエンス・AI系の概要がつかめるプログラムです。「応用基礎レベル」では、それらの専門分野をさらに深掘りする科目で構成しています。